「どうぞ」
コーヒーをひとつ差し出す
老人はコーヒーを睨むように見て
「結構です」っと答え
「そのコーヒーは私のコーヒーではない」っと続けた
「確かに僕が買ったコーヒーですが・・・・」
僕が言葉に詰まっていると老人が言う
「いや、失敬 言い方が悪かったようだ
私の飲むコーヒーは決まっているのです
そのメーカーのその商品ではなく
他のメーカーの他の商品に決めているので
それ以外は飲む気にならないのです」
「コダワリですか?」
「まぁ、そんなところです」
思ってたよりすんなりと会話ができた
もっと気難しい人だと思っていたのだが
こっちを拒絶するわけでもなく
まぁ、少し変わったところがあるけど
その後簡単な自己紹介の後
核心に迫ってみた
「なぜ、1日中電車を観ているのですか?」
老人は姿勢を正すよう座りなおし
こっちを観ながら語りだした
「別に観ているわけではない
駅に来る目的はたぶん誰もが電車に乗る事だろうし
私もその例外ではない」
「でも、電車に乗ったところ観た事ないですが?」
「待っておるからな、自分の電車を」
「自分の電車?」
「そう、自分の電車
さきほどのコーヒーと同じで私には私の電車がある
それを、待っているだけ」
「いつくるんですか?」
「待っていれば来る 一緒に乗るか?」
「そうですね、ご一緒させてもらいます」
一緒に電車を待つ
待つ、待つ、待つ、待つ、待つ
途中、寒くないですか?
など相手を気遣う会話があったのだが
すべて、だいじょうぶ という言葉にはばまれ
会話が発展する事は無かった
待つ待つ待つ待つ・・・・・・・・・
いよいよ残すところ終電の電車一本となった
生命活動が一時的に停滞し
この世界から生きる音が消えてなくなってしまった感じがする
どの方角からも機械的な音しか聞こえず
不安を覚えた
しかし、その不安が大きくなる前に
終電が来た
どんなに電車が来てもまったく反応の無かった老人が
電車が駅に入ってくる少し前に立ち上がり
白い字で3とかかれた場所へ移動した
そして、電車が来るとドアが開くと同時に
一番右の席へ移動しそこへ腰掛けた
「ここが私の席です」
「また、コダワリですか?」
「そうじゃない、決まってる
ここは、私の席だと決まっている
ここ以外座ってはいけないんだ」
「なぜ、そう思うのですか?」
「理由なんて無い」
毎日この電車のこの席に座るらしい
1日100本以上電車があり
多くの席がある中で
この電車の、この席に
なにがこの老人をこの席にしばるのだろうか
など、考えていると
「お前さんだって同じようなものだ」
唐突に老人がそう言い放った
「同じですか?」
「そう、同じだ 特に理由も無いのに
私が気になってしょうがなかっただろ?」
そう言って老人は静かに笑った
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