心落としから3ヶ月
“執行部”に配属された私は
感情に左右される事なく人間に幸せをばら撒き続けている
講演会の楽しさも段々とわかってきた
長キリトに自分自身を投射し
思いっきり感情を表に出しながら話をしている自分を想像する
あの時はわからなかったが
確かに“娯楽”だ
別に感情を表に出せないことはつらい事ではなかった
唯、退屈ではあった
今日も、義務的に職務をこなした後
自分の部屋に戻り
机の上に置かれている
今日の逮捕者リストを確認する
今日の違反者は5名
その中に
見知った名前があった・・・・・
「まぁ、捕まってしまったわけだ」
笑みを浮かべながらピノは言う
逮捕されたといっても
別に独房に監禁されるわけではなく
自分の部屋で謹慎するだけでよい
そして数日後には“堕天使”として人間の世界に送られるのである
「笑顔・・・・感情をだせるんですか?」
「あぁ、トレーニングすれば感情はもどるよ
個人差もあるけどね
心落としはあくまでも感情を表に出ないようにするものだから
別に感情そのものがなくなるんじゃないし」
「じゃ、“感情を出さない”というタブーを破ったんですか?」
「い〜や
そんなヘマはしないよ
俺が破ったのは“知ろうとしない”ってやつだ
ちょっと調べものをしていたら
バレてしまってね」
「そうですか・・・・・」
しばしの沈黙の後
ピノから笑顔が消えた
「天使の存在意義を考えた事あるか?」
「人間に幸せをもたらす」
「あぁ、そうだな
じゃ、人間の存在意義ってなんだ?」
「天使の牢獄」
「それって釣り合いが取れていると思うか?」
「え?」
「つまりだ
天使は人間のために感情を捨ててまで奉仕しているのに
人間は天使になにをしてくれている?」
「でも、堕天使から天使に戻る時
人としての生活を失いますよ?」
「まぁ、そうだが
でも、失ったことに気付くのは天使に戻ってからだ
こうは考えられないか?
人間の生活を失ってまで天使に戻って
人間に奉仕していると」
「少々強引な気がしますが・・・・」
「だが、間違いでもないだろ?」
「・・・・そうですね
で、その話と“知ろうとしない”のタブーを破った事と
どう関係があるんですか?」
「今まで俺は、
初めに天使が存在して次に人間がでてきたと思っていた
だってそうだろ?人間は天使の牢獄として存在しているのだから
しかしある時、ある人物に渡された木箱によって
その考えが覆された・・・・・
その木箱によって俺に伝えられた事が真実なのか
確かめているうちにタブーを破ってしまった」
「その、木箱は真実を語ったのですか?」
「あぁ、ほぼ間違いない
実に簡単なことだった
誰も疑問に思っていないようだが
この世界のタブーは誰に対しての誓約なんだ?
これを破ると誰が困る?」
「人間ですか?」
「そうだ
“感情を出さない” つまりこれは人間すべてを平等に扱うようにとの誓約
“知ろうとしない” 真実を知ってしまうと皆、天使をやめてしまうだろうからね
天使が人間に対しどれだけ一方的に奉仕しているか
これが知れてしまったら
天使の世界そのものの存在が揺らいでしまう
な?2つとも人間に対しての誓約だ
これから導き出される答えは1つ
俺たちの考えは逆だ
人間が天使のために存在しているのではなく
天使が人間のために存在しているんだ
しかもタブーによりそのことを気付かないようにしているということは」
「隠さなければいけない事情があると・・・・」
「そういうことだ」
ピノの言う事はすべてが正しいとは思えないし信じられなかった
だけど
間違ってはいないと思った
「まぁ、そういうわけで2日後には“堕天使だ”
だが、その前に」
机から木箱を取り去る
「これ、預かってくれないか?」
「これが、もらった木箱ですか?」
「あぁ、一見唯の木箱で
開いても」
音楽が流れる
確か、イタリアのヴァイオニストが夢の中で悪魔に教わった曲だったはず
「この通り音楽が流れるだけで
ただのオルゴールだ
だが、ある細工がしてあってね・・・・」
「どんな細工がしてあるんですか?」
「それは、秘密だ
自分で解き明かしてくれ」
意地の悪い笑みを浮かべながらピノは続ける
「どうだ、預かってもらえるか?」
私の中の好奇心がうずくのが分かった
確かに、感情はなくなっていないようだ
心落としというあまりにも大きな出来事によって
自分の中に感情が残っていた事がわからなかったのだろう
「わかりました
ピノさんと出逢ったのも何かの縁です
お預かりしましょう」
「ど〜〜も
別にこの木箱の細工を解き明かすのは自由だ
ただの、オルゴールとして使っても良いし
好きにしてくれ
捨てたってかまわない
キィのやりたいようにやってくれ」
「えぇ、わかりました」
「じゃ、また縁があったら
数百年後に再会しよう」
「まだ、別れってわけじゃないですよ
2日後見送りますよ」
「そりゃど〜も」
会話はそこで終り
私は部屋に戻った
―――2日後
3階のある一室に
5名の堕天使が集められた
そして、長キリトによって次々に人間の世界へと送られていく
最後の一人ピノの順番になった
キリトのかざす杖によって
徐々にその姿を消しつつあるピノ
いよいよ全身が消えそうになったとき
「じゃあなキィ」
最後の言葉とともに
笑顔を見せる
Angel Smile
それは、天使が最後に見せる
別れの笑顔 堕天使の園(Angel Smile)完