コ ス モ ス

2009年 米田 実  詩・曲
深まる秋を追いかけて コスモスが咲き始める
傾いた日を受けて ひときわ伸びた一輪が
何もなかったように輝いている

この街を通り過ぎた日々 コスモスが咲くと思い出す
花の季節が巡るように 人の命も繰り返す
生まれて 育ち 老いるまで
そんな自然の営みが あの朝突然奪われた

市役所の 夜も続く窓口に
老人の 差し出した死亡の届
平成7年1月生まれ 十日ばかりの短い命
「お母さんは病院に‥」
 (老人が口にした やっとの言葉)
代われなかった老人の 悔しさが涙に変わる
生きていれば幼子が 駆け回るはずの空地には
支援の証のコスモスが 色とりどりに咲きそろう
秋風の流れるままに身をまかせ 踊り始めた花たちは
ガレキの街をひと時の 夢の世界に変えて行く

寄り添い遊ぶコスモスの 重なり合った間から
裸足の子どもが飛び出して
花の周りを戯れて 風に乗って消えてった
 (コスモスの精? それとも‥‥。)
今はまだ 悲しい涙はいらないと 閉ざしたままで15年
 (もう いいだろう?)
胸の奥に仕舞うより 伝えねばならないものもある
生きていたから 未来のために

時は過ぎ 空地は消えてもコスモスの
励ましだけは忘れない
誰もが沈み 傷ついた
そんな時寄せられた 温かい手に支えられ
灰色の街が花いっぱいに
ありがとう仲間たち ありがとう希望を
コスモスを ありがとう!

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