失って初めて気付くものがある。だけどそれは大概失いたくないはずの大切な物や事だったりする。

私だって伊達に年を重ねてきたわけじゃない。そういうこともたくさん経験してきた。

だから、そうならないようにといつも気が休まらなかった。私が一番失いたくないもの、それはカズなのだから・・・。

カズは自分が生きていく道をしっかり持っていて、それに対する情熱を誰よりも側で感じていたいから、私は何時も物分りの良いお姉さんの振りをする。

今が一番大事な時だってわかっている。会えなくても、寂しくてもそんなことこれっぽちも出さずに、何時も笑顔でいようと思っている。

でもね、限界ってあるんだよね。やっぱり優しい言葉や、態度で、目に見える形で愛を感じていないと、不安になる。

私、たった1日でいいからカズの後から生まれてきたかった。

そしたら、なりふりかまわず恋しい寂しい会いたいってカズの胸に飛び込んでいける気がする。

でも現実はそんなに甘くはないんだよね。どんどんカズとの距離が開いていくって自分では思っていた。

 

俺にだって失いたくない物や事がある。今は自分の生きて行こうと決めた事の足がかりをつかみかけて、いっぱいいっぱいになってる。

でもね、それはお前がいてこその頑張りなんだよ。

18にして一生分の愛を手に入れてしまった。それってラッキーなのかアンラッキーなのかは今はわからないんだけど。

でも最後にあー幸せだったね、自分達。ってあいつと一緒に目を閉じたいって思っている。その気持ちに嘘はないんだよ。

 

最近あいつはちょっとおかしいと思う。いつもどおりに笑ってくれてるけど、目の奥が揺れてるのがわかるんだよね。

最初は、スタミナ付けなきゃねとか、マッサージしてやるとかまるでお袋が二人いるみたいだったのにね。

きっとまた自分はお姉さんだからなんて事考えて、一人で腐ってるに違いない。大体そんなことを考えてる時点で既にお子様だっつーの。

あいつにはまだ言ってないけど、明日は久々のオフなんだ。突然行って驚かせよう、そしてあいつがしたいって思ってる事、全部してあげるんだ。

そう思っていたのに、レッスン後にオフの前日だというので、仲間に誘われて遊びに行ってついついはめを外してしまい、

朝目を覚ましたらもう朝とはいえないような時間になっていた。

慌ててあいつの部屋に行ったけれど、もぬけのからで、携帯も繋がらないんだ。えーどうしよう。

でも、携帯の電源まで切って何処行ってんだよ。折角の休みなのに・・・。

自分が寝坊した事や、だいいち休みだって知らせてない事なんかすっかり忘れちゃって、なんだか腹が立ってきた。

それでも綺麗に片付けられた部屋のベッドサイドの二人の写真や、きちんと揃えられた俺ようのスリッパや、おそろいのコーヒーカップ。

随分前に二人で行った映画のチケットの半券が大事に取ってあるのを見たら、急に愛しさがこみ上げてきた。

あいつが行きそうな所ってどこだ・・・そうだ!きっとあそこだ!スニーカーの紐がほどけかけてるのもかまわずに、走った。

二人がはじめて出会った小さな公園。俺、言いがかりつけられて殴られて息も絶え絶えでベンチで伸びてたんだよ。

そしたら、人のよさそうな顔して大丈夫?って声かけてきたんだ。大概の人は遠回りして避けていくのにな。

服はぐちゃぐちゃ、血まで付いてたし、顔も腫れてたよなぁ、おまけに財布も無くなってて、俺、最悪の状態だった。

後で聞いたら旅行帰りだったらしくて、使ってない着替えのTシャツやらタオルやら持ってて、貸してくれた。

おまけに財布が無いって焦る俺に電車代まで貸してくれたんだ。

返さなくって良いからねって言ってさっさと行ってしまったけど、そういうわけにもいかず、俺は次の日からその公園で待っていた。

たまたま通りかかっただけだったのかなと諦めかけたとき、お前が現れたんだ。

ずっと後で10日間通ってたって言ったら、眼をまん丸にして、何にも言わずにぎゅって手を握り返されたけど。

あー居た。あのベンチで膝小僧抱えて、子どもみたいにちっちゃく丸まってちょこんと顎をのせて・・・可愛すぎるよ、おまえ。

後ろからそーと近寄って、目隠しをした。ビックと肩が跳ねたけど俺の手に自分の手を重ねて動かない。そのうち、掌が涙で濡れるのがわかった。

優しくそっと手を開いて、瞳を覗き込む。おまえはポロポロと涙をこぼして「カズ、カズちゃん、寂しかったんだよ・・・」後は言葉にならなくて。

おまえはちっともお姉さんなんかじゃなくて、俺の前では何時だって可愛いままの愛しい人で居ていいんだよ。

俺は俺のやり方でしかおまえの事愛せないけど、頑張って不安にさせないようにするから、ね。

 

後日談

あのさ、俺って確か我がまま王子キャラだったよね?何時から妹できたんだ・・・。

やだやだ!俺のこと前みたいにかまってくれなきゃ、俺、う・・・

止めとこう、それだけは口にするだけで、殺されちゃうよ。だって焼きもちやきなんだから・・・恐っ!

わぁお!とうとうカズちゃんバージョンで書いてしまいました。
妄想が止まりません。というか、青春しちゃってません?自分(笑)
2004.4.14