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 先ほどの表情から一転し、又市がにやりとわらってそう戯れかかる。
 それをかわす器用さは、百にはなかった。
 たやすく頬が赤くなってしまう。

「こ、こんなこと、又市さんにしかしません!」

 自分でも驚くような大きな声が出てしまい、彼女は反射的に廊下を気にした。
 旧校舎にひと気がないのは相変わらずで、又市が着いて以来、エレベーターが動いた音もしていない。
 しかし、もしあの映像研の二人が戻ってきたらと、そんな可能性が百の頭をかすめた。

 そんな内心が、彼女の表情に表れていたのだろう。
 又市は笑って安心させるように言った。

「大丈夫ですよ、百さん。あの二人がすぐに戻ってくることはありません。向こうだって、こっちの仲は分かっているはずだ。その上で、この場を俺に預けたんです。だから、水を差すような真似はしないでしょう」

 そし、又市は少し悪戯な表情で、「あの二人も付き合ってるんでね」と百に明かした。
 「まあ」と驚く彼女に、こう続ける。

「そんなわけだ。この場へのこのこ引き返したなら、気まずい思いをする羽目になる。それは、あっちも想像がつくことですからね」

「そうだったんですね。全然気付きませんでした」

 百からすれば初対面の上級生たち、しかも同じ映像研という括りで捉えていたこともあって、二人の個人的な関係には気付いていなかった。
 いや、そうでなくとも、こうした方面に鼻が利かないのは前世からだ。
 又市に説明されなければ、分からないままであったかもしれない、

「おかげで、こっちの状況も察してもらえたわけで。――しばらくはここを、邪魔の入る心配なしに使わせてもらえます。百さんももう落ち着いたようだが、もう少しゆっくりしていきましょう。その顔で人前に出たら、周りに驚かれちまう」