●書き下ろし ホットチョコレート・ハニー・バター・ホットケーキ サンプル4

 

 フォークの先を皿の蜂蜜に潜らせ、そこに付着した黄金色の甘味をぺろりと舐め取り、南が眉根をよせる。
 困り顔の彼に、甘党の恋人が皿のトレードを提案した。

「こっちのと取り替えるか。そっちはオレが食う」

 亜久津の皿には、まだ何もかけられていないホットケーキが乗っていた。
 「悪い」と詫びを入れ、南がことばに甘えて皿を交換する。
 今度こそ慎重に蜂蜜をかけながら、彼はホットケーキを食べ始めた亜久津に訊ねた。

「そっち、甘過ぎないか? 大丈夫か?」

「平気だ。こんくらいなら食える」

 本当に苦ではないらしい亜久津が、蜜の染みたホットケーキをまた一切れ口に入れた。
 自らもフォークを手にし、南は感心したように対面の相手を見る。

「お前、ほんと甘いの平気だよなあ。なのに煙草も喫うってのが、妙な感じだけど。あれ、苦いだろ」

「あれは食い物じゃねェ」

 この男の中では、味覚で味わうものとそれ以外で、彼なりの線引きがあるようだった。
 蜂蜜を纏ったホットケーキを飲み込んだ亜久津が、唇に付いた甘い粘り気を舌で舐め取る。
 それだけの無造作な仕草も、彼にかかれば野性味を帯びて人目を惹いた。
 向かいでそれを目にした南が、何とはなしに顔を赤らめる。
 その黒髪の少年へ、ふと心付いたように亜久津が言った。

「だが、テメェが苦いのが嫌いだっつーんなら、考えねぇでもねェ」

「え? 何がだ?」

 亜久津の言わんとするところを掴みかね、南が不思議そうに首を傾げる。
 素直な恋人へ、亜久津がたちのよくない笑みに緩く唇を曲げた。

「タバコ。テメェは喫いもしねェのに、苦い味だけ知ってるってのは、損っちゃ損だろ」

「おっ、お前……!」