●書き下ろし ホットチョコレート・ハニー・バター・ホットケーキ サンプル1

 

 付き合って三年目ともなれば、バレンタインのギフトにも苦労する。
 エプロン姿の南健太郎は、恋人宅のキッチンを占拠してフライパンにホットケーキの種を落としながら、後背に立つ亜久津仁を振り返った。
 銀髪に長身、鋭い目付きと近より難い印象を持つ南の恋人は、どこか神妙な顔でフライパンの中を見ている。
 普段逆立ててある髪型は、休日らしく下ろしたままになっており、大人びた彼を年相応に見せていた。

「亜久津、結局いつもと変わり映えのないのしか作れなくてごめんな。去年おととしとホットチョコレートだったから、何か他のものもと思ったけど、おれ、お菓子とかそんな作れないから、いつものホットケーキになっちまって」

 真面目な性分の南が、申し訳なさそうな顔をする。
 掃除が好きだったりと、この年頃の少年にしては家事能力の高い彼だが、さすがに万能ではない。
 家では台所に立つこともあるものの、例えば両親不在の時でも弟を飢えさせずにいられる程度の、インスタント頼みのスキルであった。
 既製のミックス粉を利用したホットケーキも、これまで亜久津に何度か振る舞ったことがある。
 南は、思案する顔で口を開いた。

「さすがにモンブランとかは無理だけど、もうちょっとレパートリー増やそうかな。お前、レベルの高いもの食べ慣れてるし」

 モンブランは、亜久津の好物だ。
 さすがに、製菓職人でもない男子高校生が手がけるには、難易度が高いものだろう。

 それでも、自分で調理して食べるという発想があるだけ、南は彼の恋人よりも数段上手であった。
 その、調理どころか家事一般に疎い男は、フライパンから南の少し気後れの色がある顔に視線を移すと、後ろから相手の腰に緩く腕を回した。
 次いで、己の方に向けられた南の頬に唇をよせる。

「別に、それでいい」