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 コナーはそれを理解している。

 コナーは、横目にハンクを見た。
 彼が何より好ましいと思う青い目も、今は夕陽を映して色合いを変えている。
 そうしたさまもまた、コナーにとっては美しく感じられた。

 そのとき、コナーのメモリーから、過去の記憶が不意に立ち上がった。
 南方らしい明るい風景の中で思い起こすには不似合いな、冬も近いデトロイトでの出来事だ。

 あれは、三十年前のことだった。
 コナーとハンクは変異体事件の捜査で、かつてサイバーライフ社を創り、そこから追われた天才イラジャ・カムスキーを訪問したのだ。
 二人の前で、カムスキーは自身が創造したアンドロイドを賞してこう言った。

 ――永遠の美しさと若さを持つ。枯れることを知らぬ花だ。

 人間よりも能力に優れ、衰えることのないアンドロイドを、彼はそのように表現したのだ。

 取締役会によってサイバーライフ社役員を解任され、デトロイト郊外へ隠居同然に暮らすカムスキーの身辺には、自らが造ったアンドロイドだけがいた。
 あのとき、ハンクが連絡を取って面会を求めるまで、彼は社会や人間とは関わりを持たずにいたらしいから、「枯れることを知らぬ花」に囲まれる環境こそが、カムスキーの望みであったのかもしれない。

 コナーもまた、カムスキーの手によるモデルではないが、サイバーライフ社の造ったアンドロイドだった。
 だが、その「枯れぬ花」であるはずの彼は、カムスキーとは別の価値観を持っている。

 ――僕が美しいと思うものは、カムスキーとは違う。決して永遠ではない、老いも衰えもする人間だ。

 サンデッキで夕景に見とれるハンクを見つめ、彼は強くそう思った。