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「……」
コナーはじっと相手を見る。
ハンクは冷静だった。
過去の傷を乗り越えた者として、今彼はコナーに話している。
その点で不安はなかったが、コナーとしては、ハンクがなぜその話題を持ち出したかが不思議だった。
息子コール・アンダーソンの死については、彼との出会いを境に、ハンクの内でもけりはついている。
しかし、心の整理がついているとはいえ、大切な存在との予期せぬ別れについてなど、ふだんの日常で口にすることはない。
ハンクにとって息子との別離がどれほど辛いものであるかを、コナーは彼なりの分析で理解していた。
ふだんは胸の底深くに沈んでいるはずの事柄について、なぜ今ハンクが触れるのか。
そのこと自体が、コナーには引っかかっていたのだ。
これは、通常のハンクにはない態度である。
彼のダークブラウンの視線を受けて、ハンクの青い目は静かだった。
コナーから目を離さぬまま、ハンクは淡々と話を続ける。
「俺があのまんまだったら、今ここにはいないだろう。息子が死んだ悔いを手放せず、そこそこで自滅してたはずだ。酒か、自殺か。どっちかで命を失ってただろうよ」
「ハンク」
再び、ハンクをいさめるようにコナーが名を呼ぶ。
ハンクは軽く笑って、現役時代より肉の薄くなった肩をすくめてみせた。
「そんな顔すんな。お前に会ってなけりゃって話だ、コナー。あの日、夜更けのバーで俺の前に現れた間抜け面のアンドロイドのおかげで、すべてが変わった。コナー、俺はお前に、『お前がこの世界を変えてくれるのかもな』と言った。その見立てに間違いはなかったな」