ジェリーフィッシュ快賊団のメイシップの甲板の上、今はジャパンの沖合い
高度2500Mの位置に停泊していてさすがに寒気がくるが、その冷気がまた心地よい。
メイの「絶対来てね☆」に押されて、なによりこれから普通に生活していくうえで、
こういった催しに参加する事は役に立つことであるしと考えて来てみたものの、その
あまりの姦しさは今のミリアにとってはいささか刺激がきつすぎた。仕方なく甲板へ
退避してみれば、そこにはある意味自分以上にこの場にそぐわない先客の姿。


「・・・意外ね。アナタがココに来るなんて」
「ふん。なんだテメェ、結局こんな所にいんのかよ?」
「過剰なショック療法は良くないでしょ?あそこにいるのは疲れるわ・・・今は、まだ」
そう言ってジョニーやらメイやらが騒いでいるブリッジのメインテーブルの方を見やる。


「いいんじゃねぇのか。変わろうとする努力は悪いことじゃねぇ。」
ま。お前にとっちゃ取り戻すと言った方が正しいのかもしれねぇけどな。
まったくこの男の辞書に思いやりといった文字は載っているのか、いないのか。
励ますつもりならもう少し暖かみを持って口にすればいいのに。
そう、不毛な思考に一人苦笑をかみ殺して


「本当に意外。大体、貴方がケーキをがっついている姿なんて、なんだか笑えるわ」
「うるせぇ」
・・・本当に、似合わないことこの上ない。
ぞんざいに素手で直接チョコレートケーキを掴んでは、口へ運びしているソルを
見ながら先程の彼との言葉を咀嚼する。
彼に言ったように自分を変えたいのは確か。だけど気づけば自分は何時も
自分以上の超人の側に居る。それが逃げ以外の何物でもないとは分かっていても、
あの青年が言うような普通の女性として過ごすには、自分の持つ力はあまりに大きすぎて。
危険な事だと知っていても望まぬモノを背負わされた『仲間』に引き付けられる。

「・・・何だ?さっきからじろじろ見やがって」
欲しいのか?そう言うが早いか、自分の指先へ一掴みケーキをなすりつけるとずい
とミリアの方へ差し出した。
一体、どうしろと言うのだろう。躊躇いつつ視線を上げると、試すような楽しげな瞳とかち合う。
・・・大分、酔っているのだろう。試されて、引く気は起こらなかった。
だが、一方的に楽しまれるのも面白くない話だ。
ミリアは一瞬、逡巡するような素振りを見せると、伸ばされたソルの指ごとケーキに噛みついた。
「ってぇ!、なにしやがる」
「それは私の科白。一体、何のマネよ、乙女にヘンなもの舐めさせて」
「だが、是で昨日までとはまた変わっただろ?」
「お生憎様。今のところ、こんなの必要ないわ」
そう言っても、何も言い返しては来ないソルをふと見やると、
視線の先にはおそらくはこのチョコレートケーキの制作者であろうハーフギアの少女。
その視線が今まで見たこともない、優しげな光を浮かべていて。
おそらく招待に応じたのも、彼女の様子を見るためだろう。
そう思うと何故だか、心が暖かくなった。自分も、彼も、良い方向へ変わっている。


ミリアはそっとソルの方へ寄り添うとソルの瞳を盗み見た。
「どうした?」
「別に」
甲板の風は相変わらず、身に冷たかったが、それすら心暖かく。





今日の日は聖バレンタイン
──そう、ギアも、人間も、アングラも、、150年の時さえも、この日ばかりは関係ない。