ごきり、と何度聞いても嫌な音がして蹴り足に首の骨が折れた感触が伝わる。

鬼を使役する外法の始末。

仕事としてはなんてことのないものだった。使役されていた鬼は外見からは想像もつかないほどあっけなく。気を篭めた蹴りの一閃で霧散する。それが鬼が想像以上に弱かったせいなのか鬼よりも自分が鬼に近かったなのか、全く分からなかった。ただ・・・ターゲットの血も鬼の返り血も・・・紅く、夜の冷気と自身の殺意に冷やされた自分の血が青い。そんな場違いな思いがまるでこの場で自分が一番鬼のように思わせて、鬼とは一体なんだったかそれを分からなくさせる。




『鬼』 人を捕らえて喰らう想像上の生物

東京がどれほどあやふやな結界の上に、成り立つものか知る者にとって、鬼が実在することなど常識だ。だが、その存在を知らない者が今の自分を見たとしたら・・・一体、誰を『鬼』と思うだろう?人を捕らえて喰らう生物。仕事の一言で、片づける自分と、一体どれ程の差があるというのだ?

陰鬱な考えを浮かべてターゲットのなれの果てをみやる。
首が曲がっていれば「畜生がぁ」などと喚くこともない。当然だ。
鬼を使役して自らの欲望を満たしていた今回のターゲットと身勝手な理由で彼を屠る自分とどう違うのか分からなくなって
────自分の守りたいものを知る人達の姿を思い出す

「外法者なら僕の相手だ。君がわざわざ手を下すことはない」
そういってくる四神の彼と
「今は、おっさんから退魔師として仕事を受けているんだろ?だったらそれ以上のことはするなよな」
と言ってくる表裏の彼───

今の、自分を見れば何と言ってくるだろう?
殺さずにすませられただろう!と殴りかかってくるだろうか?

生かしておけば今回のターゲットが新しく問題を起こすのは自明の理だった。だけど二度と動くことのない姿へと変えたのは、退魔師としての義務感とはきっと違う。これはきっと渇き。人を喰らって生きるものの渇望。

喰らいたくて、それでも側にいたくて、人を。

自分がどれ程の鬼でも一度知ってしまった暖かい世界でずっと生きていきたいと思うのは、それが渇望だろうか。例え我が身の血が凍り付いているとしても。

もうすぐ回収班はここに来る。この場にとどまり続けることがどれほど愚かなことかは分かりきっていることだ。だけど分かっていてもそれでも、薄灰色の路地裏の空に、鬼は泣いた。