2つの課題
世間にはタイプの異なる『2つの課題』があります。それは「技術的な課題」と「適応を要する課題」です。前者はその課題が自分の外側にあり技術を習得できれば解決できるもの(通常PDCAを回すことで解決)であり、後者は自分が変わらなければ変わらない課題と言えます。
何故、人と組織は変われないのかというと、「適応を要する課題」を「技術的な課題」として解決しようとするところにあります。当事者意識がなく、何か悪くなると組織を変更したり人事異動をしたりしますが、より問題が悪化する場合があります。これは問題を単に「技術的な課題」として解決しようとした例です。職場ではよく相手の話を聞かない、どうせ言ってもわからない、積極的に話をしようとしないなどということが良くあります。これは人と組織が、あるいは自分が自分の組織あるいは自分の課題として見ることが出来ていない状態です。
4つの場面展開
通常人は他人が見ているように自分で自分を見ることができません。どんな風に見られているかわかりません。社長さんは自分が裸の王様であることはわかっていますが、どのような裸に見られているかはわかりません。頭の中では推測できますが、部下が見ているようには見えません。このように観察するものと観察されるものとの間には境界があります。
例えば「会社にはビジョンがない」という言葉は自分の外側にあるものとして表現してしまっています。解決するものが外にあるものとして、自分が問題を起こしていると思わない状態です。例えば「会社にはビジョンがない」ということを人差し指で指して話すことを想像してください。中指・薬指・小指の3本は自分に向かっています。相手側から見た自分というのがこの3本の指に当たります。このことを理解することによって問題の全貌が明らかにあり、境界が崩壊します。この境界が崩壊した状態こそが「適応を要する課題」を「適応を要する課題」として解決しようとした状態になりつつあります。
U理論でいうレベル1とレベル2はまだこの境界が崩壊していない状態です。境界が崩壊した状態で見ている、つまり3本の指から見えていることが理解できる状態はレベル3の状態であり、レベル4に移行しつつある状態です。
日常行われている話し合いにおける4つの場面展開を「ダウンローディング」→「討論」→「内省的な対話」→「プレゼンシング」と表現することができます。例えば会議などで人と合わせるように話す、その人が気に入るように話すことはまだ「ダウンローディング」の状態です。例えば営業と製造などのような意見による衝突などでは、「話せばわかる」、「ディスカッションは大切」といったことであれば「技術的な課題」として解決が図られるしレベル2の状態です。「内省的な対話」とは、頭ではよくわかるが自分では理解できていない状態から相手の目で見ることができた時、自分の意見では何の役にも立たないと分かった時、本当に解決しようとする時の状態を意味し、それらは「適応を要する課題」として解決しようとし始めている状態です。そして一体感が生まれて具体的な行動に移って「プレゼンシング」に移行していきます。
ただ、ひたすら観察する
何故今まで人と組織が変われなかったかというと、知っていたとしても扱いきれなかった、実戦の手法が知られていなかった、認知の限界があったことが挙げられます。U理論でどうやったら実現できるか、Uを潜るポイントは何かというと、ただひたすらに観察することが第1ステップです。これを実行しない限り「適応を要する課題」を「適応を要する課題」として扱えません。境界があることが一般的です。ただひたすら何を観察すればよいのでしょうか。自分が愚痴を言っていると認識していない人、言っている本人が気が付かない、自分が評論家になっていることに気が付かないといけません(場面、場面で意見が翻っているようではダメ)。観察するもの、観察されるものを自分の表現がどうなっているか見極め、その主語が人差し指にある場合はレベル1であり、レベル2と云えます。
ただひたすら観察し、多くの人の声に耳を傾け時に、他者から見た自分が見えてきます。三面鏡で自分が段々見えてくるように見えてきます。事象の一部を自分が担いでいることがわかってきます。自分が変わらないと、変わらないという状態がレベル3です。レベル3に到達すると仕事の半分は終わっている状態になります。当事者姿勢になり、事象のど真ん中に自分が居て「私」が主語になります。
レベル1・2とレベル4の違いは、やる前からやるやらないと計算している状態(結果を気にしている状態)とやらない自分がつらい状態との違いです。レベル4は、結果はどうであれ自分の選択だというところが大変パワフルです。やる前から結果は約束されていません。自分が無力でもポジティブであり、その事象に対してどう向き合い、どうしようとしているかということです。
C・オットーシャーマー博士は「勇気は"死ぬ"ことを望むことから生まれる。敢えて慮空に一歩を踏み出して初めて姿を現す未知への領域へと進もうとすることだ」と述べています。
(U理論入門特典映像の配信よりメモ)