持続的リン利用

 

リンの問題とは

 リンの問題は採掘から再利用まで多次元多岐な問題のある課題です。現実的には正確な理解が必要です。複雑かつ見えない課題を可視化したいと思います。大学だけではなく、各産業界と一緒に何かを動かしていくことに意味があると思います。2008年に政策ビジョン研究センターが出来、選択肢を複数提示することが求められています。

 リンには多様な用途、環境汚染源、希少資源、戦略物質としての面があります。リンに対する関心の高まりの契機は2008年ピーク・リン論争にあります。2008年のリン価格の変動は大きかったと思われます。国際的な関心の高まりはsix sustainable development goalの主要な目標6つの一つが「持続可能な食料安全保障」であり、「グローバル・サステナブル目標」の5つ目の目標として「窒素とリンの健全なサイクル」であることです。国際的な動きにはGlobal Partnership on Nutrient Management、Global TraPs、Global P Research Initiative など異なるフレームワークがあります。リンをライフサイクルで採れると様々な段階で多様なアクターがあります。日本においてもリン資源リサイクル推進協議会や産官学戦略プラットフォームが出来ています。下水道におけるリンリサイクルは岐阜市、鳥取市、福岡市での事例があります。多様な主体の問題認識の把握とマッチングが必要です。潜在的な施策とフィージビリティ評価が必要で連携可能性はあるがプラットフォームに入っていない主体とこれからどう連携を強化するのが課題だと考えています。

持続的リン利用とは

 持続的リン利用パラダイム:リンは代替のない元素であり、DNAにとっても人間のエネルギーの代謝にとっても重要な役割を果たしています。私たちの骨の1.5~2%はリンでできています。体重60kgの人の1kgはリンです。大人は一日1gのリンを吸収して排泄しています。一生に20kgのリンが必要です。バイオマスにもリンが必要です。人間が使うリンのほとんどは、天然資源であるリン鉱石です。世界のリン鉱石の埋蔵量の約73%がモロッコ王国に集中しています。品質の良いリン鉱石(通常Cd、砒素、放射性物質など不純物が多い)は枯渇が始まっています。日本はリン資源をすべて海外に依存しており世界で8番目に多い消費国です。四川大地震で一時40~45%のリン鉱石が市場から消えました。D.Cordellさんは持続的なリン利用とは、世界のすべての農民が食糧の生産に必要なリンを十分に入手でき、しかもリンの利用にともなう環境や社会への負の影響を最小限に抑えることを世界で初めて主張しました。持続的なリン利用の実現は技術と共に社会や経済の問題です。2013年3月ベルギーのブリュッセルで第1回欧州持続的リン利用会議が行われました。社会的認知度は、CO2で50年、生物多様性で100年掛かりました。リンも同じように認知には時間が掛かります。また「知るだけでは十分ではありません。使わなければいけません。願うだけでは足りません。実行しなければいけません」はゲーテの言葉です。

 リン(P2O5)の消費量は世界で4000万㌧で、日本ではその1%程度(40万㌧)です。しかしタイは日本と同じ40万㌧の肥料を使っています。日本は右肩下がり、タイは大量のコメを輸出しています。商業的にはリンが沢山要ります。世界の窒素とリンの使用量は1961年ほぼ同等でしたが、2011年にはP2O5/窒素の比は0.4になっています。窒素肥料はアンモニアの形態でいずれ大気中に戻りますが、リンは土壌に吸着されます。1960年から生産が高まったのは窒素とリンを使い始めたからです。世界の穀物消費量は2000年を過ぎると横ばいです。バイオマス燃料に約2億㌧(全体の10%)が使われています。21世紀は人口の爆発の時代ではないと考えています。2014年72億人、2050年92億人、2100年100億人と推定され人口は早い時期に減少に移ります。ヨーロッパはリン肥料を使い過ぎです。リン肥料は95億人の人口ピークと蓄積性から増えない可能性があります。年間4000万㌧で2100年まで持つと考えています。

 リンの消費については7割削減した後、残りの3割をリサイクルする必要があると思います。ヨーロッパでは畜産の廃棄物が最大の問題で家畜の糞は人の6倍になっています。窒素やリンが過剰に発生する場所とない場所があります。糞を50kmも移動させるとなると肥料を買った方が安いことになります。日本ではリンが出てくる場所がまとまっています。仏は下水汚泥の7割を農地に戻しています。国によってリンの使い方が非常に異なります。日本のリンの輸入は20万㌧Pです。日本では入ってきたものをリサイクルすればよいと思います。先進国ヨーロッパはリンの汚染が問題です。リン鉱石消費量伸びの原因の半分は中国です。残りはインドでまだ増えます。足りないのはアフリカです。全体的には横ばいになるのではないでしょうか。4000万㌧をサステナブルに使うことです。人口の伸び率は2020年に中国は減り出します。12億人のインドは2050年に15億人で止まります。アフリカは農地や人口の密集地の関係で我々が思っているような肥料の使い方にはならないので急速にリンの使用量は増えないとみています。連携をして全体で目的を達成していく必要があります。リンを回収する企業と使う企業がつながっていないと駄目です。環境や食料を持続的に支援する必要があります。

世界とわが国におけるリン資源問題

 世界のリン利用と資源問題:リンの需要の90%は肥料生産用である。モロッコのリン鉱石は放射性物質が高い。直接・間接に必要なリンを計算してみると、例えば250kgの牛肉にはリンがほとんど使われていないが牛肉を作るには16kgのリンが必要になる。カレーライス1杯に55gのリン鉱石が必要です。国際貿易とバーチャルリンを見てみると、日本の輸入品に含まれるリンの半分は肥料用途であり、中国とモロッコから輸入しています。バーチャルリン消費とGDPの関係をみるとOECDでは14kgP/人ですが、BRICSでは4kgP/人です。アジア・アフリカにおける人口増と経済成長によりますますリン資源が必要となってきます。持続可能なリン資源管理のため、リン資源はどれほど必要か国際貿易を通じたリンの流れを理解する必要がある。

 日本のリン利用と資源問題:農業生産に使われるリンは17万㌧P(最大ユーザー)です。日本では資源利用の最上流で何が起こっているか知りません。リンは窒素ほど多くを語られてきませんでした。オランダでは収穫と同量のリンを与えています。与えたリンの20%しか生産物になっていません。80%がどのような形で土壌に存在するのかまだわかっていないし、どのように有効なリンとなるかもわかっていません。農地減少と共にリン需要も減少しています。リンが蓄積する素地があり、有効態リンは増加傾向にあります。樹園地や施設では明らかに多すぎる状態です。日本では施肥削減マージンがあるのではないか、新たな土壌中のリン肥沃度の考え方・土壌の栄養状態の診断が必要と考えています。農業(利用者側)と下水道等(供給側)との地域・地方での自給化の歩み寄りと消費者の理解が必要です。

 GDPとリンの関係は正の関係であり、①食料の選択(牛肉→鶏肉)②廃棄物の削減(日本の食糧需要と歩留まりの悪さ)は考える必要があります。啓発・啓蒙にはサイエンス・コミュニケーションが必要です。日本では空気、ネーミングに左右されることが多いです。

持続的リン利用への産官学の取組み

 戦前・戦後ともリン資源の確保に翻弄しました。それは人糞から始まりました。化学肥料というものが日本国内には伝わりにくかったです。これからは農業は右肩下がりであり、肥料の使い方の工夫が必要です。代替は鶏糞です。これからは適正な使い方を是非する段階に来ています。

 海外依存のリスクがあります。汚泥処理にリンが2~3%程度含まれています(濃縮されている)。年間1000㌧リン酸を作っているがいずれ3000㌧にしたいです。現在焼却灰(Al、Fe、Mgなどの不純物が多い)を有価で買っています。いずれ直接リン酸を作りたいです。課題は不純物が多いことです。

 現在乾式で黄リンから塩化リンを作っています。1983年黄リン工場(電気炉が必要)では色々な環境問題もありコストアップになってきたことから相次いで生産が中止されました。工業用リンは16,000~20,000㌧輸入されています。これを作る黄リンがあれば大丈夫です。ヨーロッパではドイツに黄リンを作る工場がありましたが、客が見放したため、工場が閉鎖されました。現在黄リン工場があるのはアメリカ、中国、ベトナム、カザフのみです。国策として黄リン工場が必要であり、中国やベトナムでは国策になりつつあります。1997年米国はリンの輸出を禁止しました。現在リンは中国とベトナムから輸入しています。薬、食添、農業、殺虫剤、難燃剤、表面加工、IT部材、Liイオン電池などに使われており、リンも都市鉱山でのリサイクル技術が必要です。

 リンは農業、食品の1割が下水道に入ってきています。プランクトンの富栄養化の防止でリン規制が行われてきました。神戸市東灘区の下水処理場では下水汚泥をMAPで回収しています。

 リンは材料工学ではなじみが深いです。日本では1億㌧強の鉄を作っていますが、鉄鉱石→銑鉄→鉄の炭素を落とすということで精錬していますが、鉄にリンは不要です。鉄鉱石は0.01%のリンを含有しているが溶鉱炉で鉄に溶けていく上で0.1%になっています。10万㌧のリンが除去されていますが、ここからリンを回収することが今まで研究されてきませんでした。得難い代替品となります。品質世界一の鉄鋼を保ちながらリンを回収する必要があります。鉄とリンでオンリーワンになる必要があります。

 出口戦略として肥料を使うことです。技術イノベーションとしての産官学の連携が必要です。ヨーロッパでは下水汚泥を焼く前にリンの除去を行っており、農地に返すことをやめリサイクルに使うなど、経済的・社会的な仕組みを変える必要があります。日本では明治にできた肥料取締法という法律でどの汚泥だったらどの肥料になるかも決まっています。オランダではアグリーメントをつくり、これから新設備を作るときはリン回収を入れる法律を作っています。100%回収品だけで黄リンを作る特許(JFE)もあります。産官学で黄リン工場を作るには技術だけでなく、費用が問題となっていますが、国の財産となるのであるからぜひ作る必要があります。どの省もリンを扱えないのが問題でです。

持続的リン利用をめぐる総合討論


 ここ1,2年でリンの問題がアジェンダ、プラットフォームに載って来るのではないかと思います。

 40万人の岐阜市で35万人が下水道を利用しており、年間1000㌧の焼却灰を扱っています。焼却灰は永遠のテーマでした。タイミング的には有益な事業でした。リン鉱石が7万円の時に高く買ってもらえませんでした。1㌧/日、年間300㌧販売できるところまで来ました。

 輸入の6割はJAです。野菜、果樹園は過剰添加であり、2008年よりリンとカリは抑える方向でやっています。

 どうしてこんな大きな問題が問題視されてこなかったのか、リン資源に対して何ができるか(学校教育に取り入れる)考えていきたいです。

 何故これだけ重要なリン資源の枯渇問題に誰も動かないのかということについては、マスコミに載らないとうことは情報戦で負けているのだと思います。イメージし易いメッセージが発信できていないのです。例えば食料自給率でもカロリーベースの40%の方が国民に伝わっているがこれは国の政策で、経済ベースよりもカロリーベースの方が危機管理として受け入れやすいからです。例えばリンは自給率0%ですとか必要ではないでしょうか。ニュースになることは何でもやる(記事に書きやすくする)ことが必要です。○○宣言するのもアイデアです(A4サイズ1枚に問題点を分かり易く)。ワンフレーズ、例えばモロッコが怒ったら日本から野菜が消えるなど如何でしょうか。専門家のネットワークが必要です。行動力が欠けています。常に情報を出していく、教科書に書いてなかったら「本に書いて下さい」と今までこんなことをしてなかったので浸透してなかったと思います。記者にはセミナーなどで呼びかけていくことが必要です。

 岐阜市ではリン回収設備のイニシャルコストが7億円かかりランニングコストは産廃処分費より若干高い状態です。2万円/㌧で卸しています。更に安くするためには設備能力を大きくするしかありません。JAとしては徐々に回収リンを広げていくことを考えていますが一気にリン鉱石から置き換えることにはならないと思います。汚泥を肥料として使うのは、①汚泥肥料というイメージ、②8%リンがあるが重いので労力が要る、③重金属、亜鉛、銅が蓄積、④土壌の改善機能が弱いという理由で難しいです。リンの効果については、人間が認知できる時間スケールが必要で、持続可能性にするためには社会的関心を持ってもらい、消費者がどういう選択をしたら良いのか議論が必要です。品質の良いリン鉱石は間違いなく減っています。「政策課題として取り上げられていない」、「消費者が全く知らない」という大きな問題がある。日本では「食」という字には関心があるが、「農」と書くと関心がなくなります。どうやったらリンと食とに関心を持ってもらえるのかわかりません。10年前にはリンの問題は大したことではないと言われてきました。リンは回収すれば良いでないかというが、日本人は年間60万㌧のリンを使っており、これを回収するとなれば大阪市の面積の80%に当たる土の表面からリンを掻き集める必要があります。集めても6万㌧のリンにしかなりません。海の底にリンがあってもコストもかかり使えません。昨年のブリュッセルの会議ではマスコミの方が司会をしており、宣言も出してヨーロッパ全体の会議としています。今回のシンポジウムも日本での同じような位置付けにしていきたいです。

(第1回持続的リン利用シンポジウム 2014年3月10日(月) 東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホールより )