リン資源の枯渇が云われ始めています。リンは、食糧はもとより、自動車工業、液晶製造工程、医薬品など広範な分野において重要な役割を果たしています。
原料となるリン鉱石はアメリカ、中国、モロッコ(西サハラを含む)、ロシアが年間1千万tを超える四大産出国であり、この四カ国で全世界の70%を占めています。また埋蔵量はアメリカ、中国、モロッコ、南アフリカが大きく、全世界の83%を占めています。特に、中国とモロッコだけで世界の埋蔵量の68%と偏在しています。リン鉱石は2003年ごろまではほぼ1万円/t前後で安定に推移していましたが、2005年から上昇に転じ、2007年には2003年の約1.7倍に達し、更に2008年に急激に上昇しています。
迫りくるリン資源の枯渇の危機に対応するため、リン資源の回収と再利用技術が必要となってきました。
一年間に海外から持ち込まれるリンの量は、食料品や家畜の飼料として約17万㌧、鉄鉱石や石炭に含まれて持ち込まれる量が約15万㌧、化学工業などの工業分野へ持ち込まれる量が約26万㌧、肥料として持ち込まれるものが約14万㌧、合計で約72万トンです。一方リサイクルの対象となりうるリンの量は化学原料等として工業分野で約8万㌧、下水等に排出される量が約5万㌧、鉄鋼スラグとして鉄鋼プロセスから回収できる量が約10万㌧、合計で約23万トンです。 従ってリン資源の回収源としては 1. |
水処理・汚泥処理におけるリン除去・回収・有効利用 | 2. | 微生物のポリ燐酸蓄積機構解明とリン濃縮 | 3. | 下水・排水からのリン回収技術 | 4. | 余剰汚泥からのリン回収技術 | 5. | 焼却灰からのリン回収 | 6. | 工場排水および未利用資源からのリン回収 |
などがあります。
またリンの用途と利用技術としては、
があります。 リン資源に関しては、今から50年前にアイザック・アシモフ(SF作家)が「リンがやがて地球の生物量を制限する」と予言しています。2008年5月中国四川省を大地震が襲いましたが、この時期(2008年12月)に産官学の関係者でリン資源リサイクル推進協議会が設立されました。その後も著名な国際科学誌(Nature、
Scientific Americanなど)には「リン資源の枯渇を懸念する論文」が多く発表されています。 リンは、食糧、バイオマス、金属の表面処理剤、触媒や化成品、食品添加物の原料として幅広く使われています。天然資源としてのリン鉱石は1868年に発見されました。世界のリン鉱石の耐用年数(埋蔵量/採掘量)は約50-100年程度と言われています。リン鉱石産出量は約142百万トンで、アメリカ、中国、モロッコ(西サハラを含む)、ロシアで世界の70%を占めています。可採埋蔵量は約180億トンで、アメリカ、中国、モロッコ、南アフリカで全世界の83%を占めています。また中国とモロッコだけで世界の68%を占めています。
リンの回収技術としては、 1. |
剰汚泥をオゾンとアルカリで処理して、出てきたリンをカルシウムアパタイト(HAP)として回収する技術 | 2. | 消化汚泥の脱離液にマグネシウムを加え、高いpH条件下でリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)として回収する技術 | 3. | 汚泥焼却灰をアルカリ処理して溶出したリンをHAPとして回収する技術 | 4. | 汚泥焼却灰を電気炉を用いて還元性雰囲気において溶融処理し、水砕スラグまたは黄リンガスとして回収する技術 | 5. | 余剰汚泥返流水からリンをケイ酸カルシウムなどを用いて晶析により回収する技術 | 6. | 二次処理水中のリンを吸着カラムを用いて回収する技術 | 7. | 余剰汚泥を70℃で短時間加熱し、溶出したリンをHAPとして回収するHeatphos法という技術 |
などがあります。 回収されたリンは、肥料や工業用リン酸などに利用されて初めて価値を生みます。肥料用としては、肥料取締法、製品の色、匂いや造粒性としての適正、工業用としては、原料中のアルミニウム、鉄やマグネシウムなどの金属成分の含有量を2%程度までに低く抑える必要があります。
非晶質ケイ酸カルシウム(CSH)を用いてリンを回収した場合には、そのまま「副産リン酸肥料」として登録可能です(小野田化学工業特許)。非晶質ケイ酸カルシウム(Calcium
Sicicate Hydorate (略称CSH))とリン酸との反応は、イオン交換的なものです。CSHの表面に多く存在するCa(OH)2がCa2+と2OH-に解離しますが、Ca2+はCSHの表面に固定されており、PO43-イオンがあればこれと結合します。
CSHは、小野田化学工業がリン鉱石(全農が輸入)からリンを採取する過程での副産物です。リン酸を製造する際の残渣(ケイ酸)から建材ボードを作る時にプロセスを変更して出来たものがCSHです。
一方、太平洋セメントも天然のセメント材料からCSHを作っており、現在25~30種のCSHがあり、リン回収に適したCSHを開発中である。 また、農業で使われる肥料は安価であり、肥料会社が、回収リンを副産リン酸肥料として、どれだけ高い価格で買い取れるかもコスト計算上重要です。
CSH法は、これまでのいかなるリン回収技術よりも安価であることを開発条件としており、CSHによるリン回収は今までよりも安価になると思われます。 二次処理水の技術としては、最もコスト(薬品費+電気代)の高い方法としてジルコニウム吸着法(1,652/円kg-p)、最も安い方法として塩化第二鉄凝集沈殿法(747/円kg-p)があります(大竹先生監修「リン資源の回収と有効利用」P.47:処理コスト評価参照)。
リン回収の問題は、環境問題の中で国も余り深刻な問題として捉えてきていませんでした。しかし、リン資源としてのリン鉱石が地球上に偏在し、品質の良いリン鉱石は地球的規模で枯渇を始めています。しかも、世界に於ける日本の消費(海外での消費も含め)は10%を占めており、リン資源をすべて海外からの輸入に頼っている日本にとって、リン資源を確保することが年々困難になりつつあります。リン鉱石はレアメタル問題以上に重要な課題として取り組む時期に来ています。
リンの廃棄を1㌧とすると、約4千人分のリン(年間必要量)を捨てていることになります。リンの回収をトップランナーとして取り組めば、企業イメージとしても好感が持てます。フォスフェイトリファイナリー事業化の幕開けとなります。
現在、都市下水等に年間約5万トンのリンが排出されています。回収されたリンは再利用されて初めて価値を生みます。リン資源を無駄なく利用するため、省リン技術の開発に取り組む必要があります。
年間約9万トンのリンが製鋼スラグとして排出されています。化学工業分野に流れ込むリン量は年間約30万トンあります。画期的な工業用リン酸および黄リン製造技術を開発する必要があります。回収リンの利用促進のための優遇措置についても検討する必要があります。リン資源としてのリン鉱石が地球上に偏在し、品質の良いリン鉱石は地球的規模で枯渇を始めています。しかも、世界に於ける日本の消費(海外での消費も含め)は10%を占めており、リン資源をすべて海外からの輸入に頼っている日本にとって、リン資源を確保することが年々困難になりつつあります。リン鉱石はレアメタル問題以上に重要な課題として取り組む時期に来ていています。 |