排熱の利用

 

都市の代謝系と熱代謝の改善

 都市を代謝系としてみると、都市域内外からエネルギー、水、物質の供給を受け、都市活動において消費され、排熱、排水、廃棄物を気圏、水圏、地圏に排出するモデルで示され、代謝系の改善のため都市内の物質系、水系、エネルギー系のリサイクルにより、都市へのエネルギー、水、物質の供給量および都市からの排水量を低減する努力がなされてきています。系間の連係による都市代謝系の改善努力として、ごみ発電のような物質系とエネルギー系の連係や、下水消化ガス発電のような水系とエネルギー系の連係事例があります。

 交通部門と産業部門を除き、都市へのエネルギー供給と熱代謝に注目しましょう。都市に供給された電気、ガス、石油は、主として業務部門と住宅部門で消費され、最終的に熱として都市内の気圏、水圏、地圏に排出されます。都市における熱需要施設である建物内の排熱回収、都市内排熱施設から熱需要施設への排熱回収に取り組むことにより、エネルギー供給量や人工排熱量を低減できます。エネルギー供給量の低減は温暖化対策に貢献し、人工排熱量を低減することはヒートアイランド対策に貢献します。特に気圏への排出を抑制することがヒートアイランド対策として喫緊の課題です。

 以上、都市における熱エネルギー代謝系の変革は熱の回収(リサイクル)利用を徹底することであると言えます。その際、これまで以上に、エネルギー系、水系、物質系を連係させた新たな取り組みが必要となります。

熱消費と排熱の特徴

 
日本における家庭部門で使う全エネルギーのうち55%は暖房と給湯用途に消費されています。さらに驚くべきことは、エネルギー源別に見ると、家庭部門で消費する全化石燃料の89%は暖房と給湯用途という比較的低温度レベルの熱として消費されています。これは家庭部門の全ネルギー消費量の47%に相当します。オフィスビルなど業務部門において家庭部門ではありませんが、暖房と給湯用に業務部門全体のエネルギーの34%が消費され、部門全体の31%が化石燃料により暖房と給湯用に消費されています。

 一方、京阪神地域における人工排熱総量の調査結果では、臨海部に工業地帯があるため、工場排熱が大阪府全体の排熱の55%、兵庫県全体の排熱の70%を占めており、その大きさが理解されます。この人工排熱を家庭部門、業務部門の熱需要用に回収利用することができれば、大きな温暖化対策効果が得られます。また、人工排熱の殆どが空気温度を上昇させる顕熱であり、過半が地上施設からの排熱であることが推定されるため、回収利用はヒートアイランド対策としても価値があります。

解決策

 大阪府の広域エネルギー供給ネットワークのケーススタディにおいて、地中埋設熱伝導管建設費が大きなネックとなっていますが、河川・橋梁ルート高速道路ルート、鉄道ルートなどを利用して架空または地表に配管を敷設できれば建設費を大きく低減できるでしょう。大阪市域では高速道路が熱需要施設のある市中心域入り込んでいる一方、湾岸域の大規模排熱工場に沿っても敷設されています。また日本の臨界都市では、河川ルートが都市中心部を通ることが多く活用が期待されます。

 下水・工業用水幹線を用いた未利用エネルギーの賦存量はその流量から判断するとごみ焼却排熱よりはるかに小さな量ですが、熱のバスラインとして活用できるなら魅力があります。例えば、大阪市中心部を横断する工業用水幹線の流量は1日約3万トンに過ぎないが、冬期のデータセンタ排熱を工業用水へ処理できれば、上流側から排熱処理、熱回収を繰り返すことにより、メリットが得られます。

 大阪市の清掃工場では10工場中9工場にごみ発電が導入されています。ゴミの燃焼熱で生成した蒸気をタービンに供給し発電するもであり、蒸気タービンから排出される蒸気を大気により熱交換(腹水器と呼ぶ)・冷却している。蒸気タービンを使った動力プラントでは、普通腹水器排熱を利用することはありません。熱量は大きいが、温度レベルが50℃程度と低いため、利用をあきらめてそのまま捨てられています。清掃工場が上水幹線ルート上にあれば、上水を中間期と冬期に25℃程度加熱することで住宅の供給用エネルギー消費量を低減できます。上水を25℃程度に加熱すると配管の劣化、塩素注入量が増えるといったデメリットがあるが、許容される範囲でしょう。この上水加温は特に寒冷地において効果的です。

下水の排熱回収

 
下水は夏は気温より2~3度低く、冬は10度以上高い。熱は加温に、冷気は冷却に再利用できます。熱交換器やヒートポンプを使い、下水と気温の温度差を給湯冷暖房に生かせます。