宇宙船地球号を制御するためのカギ
かつての地球は現在よりはるかに広大な森林に覆われていたが、人類はこれを次つぎと農地に変えることによって食料生産を増やし、これとともに人口も増大してきました。また、産業革命は、科学技術の飛躍的発展とモノの大量生産を可能としました。その恩恵は農業生産にも及び、肥料、農薬の大量投入と機械化によって単位農地面積当たりの収量も大幅に増大しました。しかし、人類だけがこの地球を独占的に支配することはできません。地球という惑星において私たちの生存を可能としている諸条件が、かくも巧妙に満たされていることの奇跡です。
人間活動の拡大は、かくのごとき精妙につくられた地球環境の調和を崩そうとしています。この歪は人間の手で是正しなければなりません。このため、国際社会はフロンガスの製造・使用の禁止(モントリオール議定書)を決め、温室効果ガスの排出量削減(京都議定書)を決めています。これらは、宇宙船地球号の環境制御のための処置にほかなりません。これに失敗すれば、人類の運命は、環境制御に失敗した水槽の中の魚のようなものになってしまいます。
人間は目先の利益には敏感ですが、自分の寿命よりも長い時間のスケールで、遠い未来のことまで考えて行動することは不得手です。このため、問題をわかりやすく説明し、対策の必要性と効果を、お金の損得勘定も交えて人びとに納得させなければなりません。そのため、さまざまなモデルによるシミュレーション、費用便益分析などが開発されてはいますが、人びとはそれだけで納得するとは限りません。だからこそ、問題をさまざまな視点から分析して判断する環境システム学の役割が重要です。
後悔しない政策の必要性
21世紀初頭の今日、地球温暖化は確かに進行しており、その原因が化石燃料からの二酸化炭素の排出らしいことについて疑いの余地は少ないと思われます。それでも、水蒸気の温室効果のことなど、まだ疑問がないわけではありません。地球の歴史の中では短期間でしかない過去1万年以内においても、人間活動に起因はしない自然現象として、温暖化と寒冷化を頻繁に繰り返してきました。しかし、過去100年くらいの現象としての地球温暖化は確かに進行し、動きは加速していることです。
人類の活動規模と内容を地球の環境容量に見合うように制御していくこと、化石燃料に代わるエネルギーとして太陽エネルギーなどの自然エネルギーの利用を拡大することは、いずれにしても必要なことです。地球温暖化を契機として、人類が産業革命以来続けてきた化石燃料文明からの脱却をめざすことが、「後悔しない政策(non-regret
policy)」であることは間違いありません。
さらに重要性を増す生物多様性
地球の環境システムを構成するのは、気候システムと生物多様性です。この両者が相互に作用しあって、地球の生態系が有機体として持続しています。地球温暖化は、気温、水温、降雨パターンの変化などのリサイクルの変化を通して生物多様性の保全にとっても重大な影響を及ぼします。また熱帯林の消失は、生物多様性の減少をもたらすと同時に、地球の気候システムに影響を及ぼします。これらのすべての問題は互いに結び合っていて切り離せない関係にあります。
人間という小さな存在の大きな影響
地球の生態系は、変化を繰り返す気候と生物多様性とが相互に作用しあって作り出された複雑系です。この変化に適応するかのごとく、生物の特別な形質を発展させたり、消失させたりする変化が遺伝子レベルで起き、進化が起きています。自然界の揺らぎの中で起きている進化には膳も悪もないが、人間はその行為によって、この進化の過程に大きな影響を与えようとしています。だが、シカを食べ尽くせばライオンも滅ぶことを想起しなければなりません。
私たちは、地球生態系の進化の歴史の1ページに記載されるかどうかもわからない一瞬に登場する小さな存在ですが、宇宙船地球号に同乗した生物多様性に対して壊滅的な打撃を与えかねない危険な存在でもあります。
脱化石燃料依存体質
低炭素を支える基礎技術としてバイオテクノロジーに期待される役割はきわめて大きいが、そのためにも生物多様性の保全が不可欠です。バイオテクノロジーは、食料、バイオ燃料、化学製品、医薬品、環境浄化のいずれにおいても、低炭素社会のキーテクノロジーとなるでしょう。これによって、低炭素、自然との共生、資源循環の三つの目標の同時達成を目指さなければなりません。
環境と経済に好ましい選択とは
典型的な問題は、空気、水、土壌といった環境資源が、誰でも勝手に使える自由財あるいはそれに近いものとして扱われてきたために、資源の著しい過剰消費や劣化が生じてしまったことです。その例が、大気や水の汚染でした。環境管理のひとつの役割は、自由財として扱われてきた環境資源の利用をさまざまな手段で制御することだと言ってもいいでしょう。
ここで重要なことは、経済にとっても環境にとっても好ましい道を選ぶことです。そのためには、環境にとって好ましい製品やサービスへの需要を喚起することです。不況のときに、将来を見据えた環境投資ができるかどうかが鍵です。
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