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スターン報告書
2006年11月にStern Review: The
Economics of Climate Changeが公表されました。スターン博士の主要な結論は、
- きちんとした経済モデルの分析結果に基づいて、もし、我々が対策を取らないならば、気候変動の総合的なコストとリスクは、世界のGDPの少なくとも5%を毎年と未来永劫、失うことに等しいと見積もる。もし、リスクと影響の範囲をより広く勘案するなら、損害の見積もりはGDPの20%あるいはそれ以上に上がるだろう。
- それに対して、対策をとること、すなわち、気候変動の最悪の影響を回避するために温室効果ガスの排出を削減することのコストは、毎年、世界のGDPの1%程度に限定される。
- 非常に速やかかつ強力な対策をとることは明らかに正当化される。
です。
長年気候変動政策に取り組んできた多くの王道の経済学者から、経済学として問題がある旨の批判が提起されました。
- 1.2.の算定に関して、きちんとした費用便益分析の体制をとっていることは評価できるが、その具体的な数値は、意図的に極端に悲観的な数値ばかり抜き出されており、学術的に中立性がない。
- 1.2.が正しいとしても、そこから3.の結論を導く経済的な論理が不明である。またその結論自体、学術研究例としては一般的ではない。特に、「気候政策傾斜路」に矛盾する。
- 1.〜3.を決定的に左右する「割引率(あるいは社会的時間選好率)」の値がおかしい。設定の論理、具体的な値とも標準的な経済学の考え方とは異なっている。
学術的な問題点の有無は別にしても、IPCC報告書のように、分析結果についての専門家の査読がなされていません。このことから、少なくとも学術的な中立性には疑問符が付いており、極めて政治的な意図が込められていると理解するべきです。
(ゼミナール 環境経済学入門 日本経済新聞社出版(2010)より)
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