久々に増えてみた断片頁之五。
相変わらずといえば相変わらずです……



俺はお前のことが好き。
おかしくなったのかと自分でも思うけど、多分残念ながらこれは真実だ。
だけど、だからといってお前に好きだなんて言われたくない。
そんな嘘は吐かなくっていい。同情して欲しいわけじゃないんだ。
お前が俺を嫌ってるのも蔑んでるのも、いつか離れていってしまうのもわかってる。
ちゃんと、わかってるんだ。

「―――愛している」

だから、どうか。
悪趣味な冗談でからかうのは止めてくれ。
甘く優しい幻なんて、もう見たくない。
哀れんでくれるのなら、いっそ一息にこの首を落としてくれればいい。
そうすれば今後こそ、俺は安らかに眠れるだろう。
ただ、お前を愛しているとだけ想いながら。

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50
荒んだ修羅場で生まれていくもの。
記念すべき50個目〜なんですが、どうも愛が足りない……
(07/04/04)
そして、更新をアップしてないことにようやく気付きました……070407




 ギギナがある日エリダナの道端で拾ったのは、神経質な野良猫を思わせるイキモノだった。
 野生動物と呼ぶには気概も生命力も弱すぎるが、貴族の端くれとは思えぬ捻くれ具合は、家猫と呼ぶにも相応しくない。人に慣れず路地裏に転がっていたイキモノは、中途半端に強情な癖に軟弱で甘すぎた。人間とつかず離れず暮らしている野良猫と呼ぶくらいで丁度いい。
 おずおずと事務所に入ってきたイキモノは、いつしか此処を居場所として気に入ったらしい。適当に構ってやると嬉しそうに笑う男は、力の格差を悟ってなお噛み付く気概も持ち合わせている。おとなしく愛玩されるだけの小動物ではないが、甘やかして信頼させれば、柔らかな腹を撫でることも許して咽喉を鳴らし始めるだろう。飼い慣らして己がモノとするのも悪くない。
 力押しではなく、思考をもって作戦を組み立てる戦闘スタイルを見ていると、いずれこの男の指揮に従う瞬間もあるのだろうかと予測出来て嫌な気分になる。今はともかく、いずれはとジオルグが考えているのが察せられて、貪欲に成長しようと足掻いているイキモノを複雑な気分で見つめてしまう。

 何故だろうか。
 この男は、従うよりも従わせたいという感情を生じさせる。
 奴を屈服させるのは、さぞ気分が良いだろう。意地っ張りな男が、絶対的な力の差を身に思い知らされながら、涙を堪えて反抗するところを更なる圧倒的な力でねじ伏せてやるのだ。それはさぞかし心躍る狩りになるに違いない。戦闘の最中に上げている悲鳴は、そこいらの女の鳴き声よりも余程に征服欲を煽ってくれる。あの声を、自分の下に組み敷きながら聞いてみたい。この手で声が掠れるまで叫ばせてみたい。
 欲情されていると気付かずに、無防備に背を向ける男を観察しながら微笑が浮かぶ。
 今はまだ、彼は独りで生きていけるかもしれない。
 それとも戦場で死ぬ覚悟を持ち続けられずに、此処から去っていこうとするのかもしれない。
 だが――こうして出会った以上は逃がさない。逃がしてはやらない。

 どうせぬくもりを知った野良猫は、二度と孤独に耐えられない。
 冷えていくぬるま湯の中で、もがいている哀れなイキモノを二度と手離しはしない。
 ギギナがこれを自分のモノにすると決めた瞬間から、彼に選択する権利はないのだから。

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49
短文ばかり溜まっていき、ギギナの開き直り度も溜まっていく……(汗)
(07/03/28)




『わたしのスキなもの』

綺麗なものは好きだ。

料理はもちろん味を楽しむものだが、見た目の美しさも重要だ。まず目で楽しませて食欲をそそらせる料理こそが、一流といえると思う。そして、惣菜類と違って見た目が何より重視される食べ物が――菓子類だと思う。
見ているだけで綺麗で可愛くって、食べてみたいと思わせるもの。
男達が過敏に反応するこの季節、女性達がお菓子を買いに走る理由の中には、可愛らしいものを買いたいという想いがあるんじゃないだろうか。そうじゃなきゃ、野郎に渡すモノにあんな可愛らしい商品が氾濫するとは思えない。
買い手である女性が、思わず欲しくなってしまうような品物。
最近じゃ、女友達や自分のために買う女性も多いらしい。
あまたの菓子業者が、この時期ばかりはこぞってチョコレート製作に奔走する。
過剰包装も何のその、あの手この手で可愛らしさや美しさを競い合い、少しでも女性の目を惹こうとするあまり、贈り主が誰なのか見失いかけてる気がするこの時期が、俺は別に嫌いじゃない。
そりゃ、貰う側としては複雑ではあるんだが、料理好きとしては嫌いな空気じゃない。甘い菓子はそれだけで、お手軽にしあわせ気分を味あわせてくれるから。

ガリガリと板チョコを削っていく。
口に入れれば甘く蕩けるチョコレートも、細かく削るのは意外と骨が折れる。
鍋や温度計を用意して、板状だったチョコレートを湯煎で溶かしていく訳だが、ここが一番気を遣う。
60度程に熱した湯をボールに入れて、そこに浸けた鍋の中でチョコレートを蕩かしていく。
ここで温度を誤ると、油脂が分離して白い結晶が浮かんできたりして、見た目はおかしくなるし味も一気に悪くなる。それを防ぐため、氷水を用意しておいて熱くなりすぎる前にチョコレートを冷やすのだが、当然ながら冷やし過ぎると再び固まって、何のために暖めていたのか不明になってしまう。
美味しく食べるためには、金よりも手間がかかるのが料理というものだ。
勿論、上質な材料は高価なので、金も比例してかかってくるのだが。
どこまでも貧乏というのは苦労の原因になるのだと思うと、鍋をかき回しながらも視線が遠くなる。
そもそも店頭に溢れる豊富な材料に心惹かれ、勢いに任せて手作りチョコの製作なんかを始めてみても、行き着く胃袋は誰のものになるのか。
考えてみると、考えたくもない相手しか思いつかない。
自分で食べるという手もあるが……野郎に食われるのと、どちらが哀しいものか。それこそ勢いのままに大量に作りかけている可憐な菓子を眺めて、完成前からつい溜息が洩れた。
そういえば昨年は、事務所に道具を持ち込んだのだった。そして案の定、あの男に見つかって乱闘になり――かけたところで、呆気なく出来上がりを奪われてしまった。腐るほどくれるだろう女達からは、面倒がってひとつも受け取らなかったらしいのに、目の前で甘い匂いを嗅ぐと我慢できなくなったらしい。
それにしたって、ジヴに渡す分は残ったから別に良いとか思っていたが、あんなにたくさん菓子を作った去年の俺は、余りをどうするつもりだったのか。
他ならぬ己の行動に、微妙に整合性が無いことに気付いて苦い笑みが浮かぶ。女からだけなんてズルいと拗ねるジヴを宥めるなんて容易かったはずなのに、わざわざ大量に材料を買い込んで。ダイエット中だからと言い訳して糖度は控えめに、彼女の好みより少し苦い菓子を作り上げた。
そして、彼女がもういない今年も同じように食べきれぬほどに材料を買い込んで、自宅にこもっているのは何故なのだろう。あげる宛てもない菓子を孤独に作るなんて空しすぎる。それなのに、俺は何をやっているんだ?
――ああ、本当はわかっている。
恋しても愛してもいないけれど、いつだって特別な位置を占めていた男の面影が消えてくれない。否、最初から消すつもりなんて無いんだ。あいつがいる限り、俺は独りにはならない。作りすぎて食べてくれる人のいない食料なんて、ありえないんだから。
もう少ししたら、玄関が勝手に開くだろう。そして幾重にも巡らせた咒式錠の全てを解除することを可能とするたった一人が、当然の顔をしながら手ぶらで現れるのだ。やってくる道々で手渡そうと待ち伏せていた数多の存在に目もくれず。

綺麗なものは好きだ。
アレがとても綺麗なことだけは、否定する気はない。
けれど、とても綺麗なアレは他のどんなものよりも甘くはない。
綺麗なイキモノが好きだけど、キレイなモノに好かれる方法はわからない。

それでも、綺麗なものは好き。

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48
ホワイトデーだけどバレンタイン(汗)
(07/03/14)




動物王国 〜冬のよろこび編〜

「ダイスキだよ、ギギナ」
 真正面から向けられる、満面の微笑み。
 うっとりと幸せに酔いしれた表情は、他ならぬギギナが引き出したものだ。いつも不機嫌な顔ばかりしている男が無防備な笑顔を浮かべているのが、まったく嬉しくないとは言わない。むしろ自分を焦がれるように見つめる眼差しは、ギギナの望むところだった。ただしそれが、ギギナ自身に向けられたものなら――もこもこふかふかの、雪豹の毛皮へ向けられた賛美でなければ。
 恋する乙女のような憧れを宿した男が、そっと手を伸ばしてくる。
 まるで恋人に始めて触れる瞬間のように、壊れ物を撫でる慎重さと拒絶への僅かな怯えを滲ませて。
 ゆっくりと恐る恐る差し出された腕を、雪豹は黙して動かぬことで受け入れた。相棒は消極的な許容にほっとした様子で、しばらくは手触りの良さを楽しんでいたが、じきに大胆にぎゅっとしがみついて顔をすり寄せて来る。
 腹の立つ話だ。
 一方的に男に抱きつかれるなど、冗談ではない。
 さっさと振り払ってしまおう――と思うのは、本当は嫌だからではなく。嫌ではないから、問題だった。
「ああもう……今なら、おまえに何されても許せそう」
 顔が埋められた首元へと、熱い吐息がかかる。
 甘い睦言としか思えぬ呟きが聞こえて、ゾクリと背筋に衝撃が走った。
 その言葉に偽りはあるまいなと、耳元に囁きながら噛みついてやりたい。ざらつく舌を首筋に這わせて、心地良い悲鳴を上げさせたい。動物好きなガユスはいつも雪豹に触れたくてたまらない様子だったが、ギギナだって彼に触りたいのをずっとずっと長い間我慢してきたのに。
 愛撫するように丁寧な動作に忍耐も限界に達して、猛獣は衝動のままに細身の肢体を押し倒す。唐突に事務所の床に転がされた男は、きょとんとした顔でおとなしく組み敷かれながらギギナを見上げてきた。
 その咽喉元に喰らいついてしまおうと、ケダモノは興奮を抑える努力を放棄して顔を近付けていく。さあ待ちに待った食事の時間だ。これまでのツケを回収させてもらおう。存分に、満足するまで虐めてやろうじゃないか。
「――ギギナ。愛してるよ」
 猛るオスへ不意打ちのように浴びせられたのは、悪戯っぽい笑顔と信頼の言葉。
 酷薄な気分で相棒に牙を突き立てんと意気込んでいた肉食獣は、こんな体勢になってさえ危機感を覚えぬ相手に苛立ち、不覚にも同等の罪悪感を感じて躊躇する。
 わかっているのだ。ガユスの言葉には深い意味はない。愚かで鈍いイキモノは、ギギナの秘めた好意に気付かない。欲望の混じる情動に気付こうとはしない。甘く届く声は嫌がらせであって、誘われているのではない。そう、わかっている。ここで踏みとどまれねば、逆にガユスを失うことも。
「ずっと傍に居て欲しいな…………冬毛のお前にならね!」
 冬季限定だけど、念のため。
 笑う男はアイを告白した直後に、でも夏は暑いから近付くなと惨いことを言い放つ。
 微笑んで言い切る男に悪気はまったくなくて、恋情もまったく絡んではいないのだろう。
 やはりというか相変わらず、ガユスがギギナの胸の内を察した様子はない。微妙な安堵と少しの切なさを感じて、雪豹は静かに溜息を吐いた。


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47
やっぱり寸止めに終わるの図。ハトリ様の日記に萌え燃えになって書いたものです(こそ)
こんなものですがどうか捧げたい……! ありがとうございました〜!!
(07/03/02)

(070404)追記。ハトリ様から、萌えの源を奪取させて頂きましたので、こそりと掲載。うはうはですよ〜ふふふ。




(ふと気付くと、一日中奴のことばかり考えている自分がいる)

できればそんなおぞましい事態とはオサラバしたいのだが、奴が飽きもせずに持って帰ってくる請求書とか請求書とか偶には危険度が高すぎる仕事とか。ともかく止めどない厄介事の数々が、俺を奴から解放してくれない。
こんなに虐げられているのに何で奴と組み続けているのか、はっきり言って自分でも不明だ。

(ふと気付くと、可愛い恋人より奴のことばかり考えている)

成り行きや惰性にも程がある。そう、わかってはいる。
それでも、きっと明日もギギナのことばかり考える。

(それだけは、やめられない)


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46
もはや中毒。
(07/02/01)




「―――ガユス!」
 怒号と共に頭上を旋回しながら飛び越えていったのは、あまりに見慣れた刀だった。
 鋭い切れ味だけでなく、その重みでもって敵がなぎ払われていく。直後に一帯を支配した轟音と爆風が収まった時、辺りには深い沈黙が満ちていた。
 軽く身を屈めて咒式を放った赤毛の青年は、何ひとつ動くものが見えなくなった世界を眺め、腰を伸ばしながら皮肉気に嘲笑する。
「恐怖のあまり滲んだ汗で武器が手からすっぽ抜けたか。それとも遂にネレトーは武器だというのも認識できなくなったか?」
「腰が抜けて這いつくばっていたくせに、命ばかりは助かったとわかった途端うわ言を叫びだすとは。とうとう惨殺されたくなったらしいな」
 他愛ない軽口を交わした後で、同時に溜息が洩れたのは何故だろう。
 いささか肝を冷やした事態を乗り越え、そんな失態を恥じながらも安堵し、複雑な感情を内包した視線が交わされる。窮地へ陥ったことを嘆かわしく思い、陥らせた自分を悔いてみる。
「……武器を手放すのは、さすがにどうかと思うぞ」
「貴様が軟弱なのが悪い」
 僅かに毒素の弱まった言葉を投げあって、本日の反省会は終了。互いの内に残ったのは、微妙に異なる感慨だ。

 敵に囲まれた己を情けなく思うが、自分を援護する男が焦りを滲ませている姿は何故か気分がいい。
 愚かにも為す術なく倒されそうな男を足手まといだと思うが、彼を護りきれたことに酷く安堵する。


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45
久々、ひさびさ。どうも調子が出ません・・・
(07/01/24)




 妙にまじまじと見つめられているから、何か用かと尋ねてみた。
 ギギナが俺を嘲るでなく真摯な眼差しを向けるなんて、気持ち悪さ限りないが、それだけ真面目な理由があるかと思ってしまったのだ。
 すると大きな手を伸ばされて、何のつもりだかわからずに奴の行動を見守っていると、ゆっくりと頬に添えられた手に促され上を向かされる。
 体格的に当然ながら、頭ひとつ高い位置から見下ろされて、ちょっと不愉快になる。しかし奴の顔があくまで真剣だったので、思わず振り払うでなく出方を待ってしまった、のが。
 俺の、不覚だった。

 どんどん近付いてくる顔を、思わずぽかんとしたまま見つめていた。
 そのまま当然のように唇が重なり、ようやく我に返ったがもう遅い。
 暴れてもギギナの腕力に敵うはずがなく、好き放題に貪られてしまう。
 ようやく手を離した男を、何しやがるんだと睨みつけると、微塵も悪びれぬ態度で、何が悪いのだと問い返されてしまった。

 普通はこういうことを男にしないんだよっ。
 叫ぶと不思議そうな顔をされた。
 貴様は、いつも私が普通じゃないと言う癖に、こんな時だけ普通の反応を求めるのか。
 まるで俺の方が、おかしいような言い草。
 冗談じゃない、どう考えてもオカシイのはお前の方だ。


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44
甘いもの、というリクがひそかに。あまい?
(07/01/08)




 独占欲は強い方だ。
 本当は他の誰にも見せたくない、触らせたくない、何処かへ閉じ込めてしまいたい。
 だが、この執着を知ればアレは嫌悪するだろう。いや、恐怖して逃げ出そうとするだろう。本当は誰かに強く必要とされたいくせに。
 最も重要なのは、隣にいること。捕まえておくこと。必要以上には、束縛しないこと。
 あのイキモノは、口先で何を言おうとヒトと交わりヒトと語らうことを愛している。
 しかし同時に他人を恐れ、裏切りに怯えている。
 裏切られる可能性そのものを、排除しようとしている。
 だから今は、伝えるつもりはない。
 傍にいて、身体だけ貪りあう存在だと思っていればいい。
 いつかと望むこの想いは、誰にも言えない。


 どうして彼は自分の隣にいるのだろうか。
 考え出すと不安で仕方が無いが、いつでも胸の奥でくすぶっている疑問。
 いつか彼すら去っていってしまったら、どうしたらいい?
 ぐるぐると回る思考はいつでも嫌な結末にたどり着いてしまうので、途中で停止するよう注意している。己の無駄なほどお利口な頭脳が恨めしい。
 考えなくてもわかっている。
 いずれ別れの時は来る。
 それが何時かはわからないし、今日では無さそうだが明日かもしれない。こんな仕事をしていれば、仲違い以外にも別れの原因は山ほど思いつく。
 ああだけど、今だけは。
 いつか来るその時までは、隣にいてくれ。


 彼にだけは言えない言葉がある。
 だからこそ、決して道が交わることはない。


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43
めざせ連続更新中・・・
(07/01/07)




『ハイリスク・ノーリターン』

 法を守って殺されるくらいなら、法を破って殺してきた。
 この生き方を後悔することもあるが、これからも生き残る為に戦うだろう。
 法律とか世間体とか倫理観とか。モラルと呼ばれるものに逆らうからこそ、今も俺は生きていられる。そうするのを止めた時こそが多分、逃れようの無い死に捕まる瞬間だ。

 そんな自分がこの恋を躊躇うのは、告白した後のリスクが大きすぎるから。

 この想いは誰にも言えない。あいつにも他の誰にも知られてはいけない。
 この想いは誰にも言えない。自分自身でも気付いてはいけない。
 コレはキレイな想いじゃない。依存し、傷つけて。始めてしまったら、破滅に向かうしかないモノだ。恋でなく愛でなく憎悪ですらなく、ただ執着して独占したくて。その為に、もっと深く繋がっていたいだけ。相手を想うのではなく、自分のためにこそ求めている。
 傷つきたくないから、黙っているしかない。俺が想うようには、あいつは俺を想ってはくれないから。遊びだといって誘えば、物珍しさに応えてくれるかもしれない。けれど、飽きれば終わってしまう。その時、平静を保つ自信はない。捨てられるくらいならと襲い掛かって、返り討ちにされて満足できそうなくらいには。
 いや、たとえ遊びだろうと奴が貧弱な男に手を伸べるなど考えにくい。
 奴に拒まれたら……多分絶対そうなるだろうが、拒絶され嘲笑されて、それだけではなく今度は奴にまで置いていかれるかもしれない。独り残され捨てられるかもしれない。仮定形じゃなくてきっとそうなる。そうしたらどうすればいい。

 得るものと失うものを天秤にかけたとき、モラルに逆らった挙句に手にするものは全く無い。
 誰にも言わず、己自身の眼を閉じて耳を塞いで、何も気付かずに隣にいよう。
 誰かに知られてしまったら、その瞬間に想いは崩壊する。

 この恋は忘れなくてはならない。
 この恋は始めてはいけない。


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42
暗くするんだ〜と謎の自己暗示をかけながら書いたメモ……のはずが。
(07/01/04)




 コトのきっかけが何だったのかは、未だによくわからない。
 あれは俺達が仕事で郊外に出かけて、懐事情の関係から宿で同室に泊まった晩のことだった。
 独り部屋をふたつ取るより二人部屋ひとつの方が安い。そんな当たり前の図式を確認する羽目に陥ったのは、相変わらずギギナの無駄遣いが原因な訳で、奴に相部屋を拒否する権利はなし。ギギナと同室というのは気が進まないが、かといってヴァンで車内泊も空しいというか同部屋より更に距離は近くなる。
 エリダナに帰ることも考えたが、咒力を消耗しきった上での長距離運転は遠慮したかった。たとえ事故ってもギギナは無事だろうけど、俺とヴァンは大惨事だ。懐はいかにも淋しかったし、下手をすると女を漁りに出て一晩無人の部屋の代金を払う余裕はない。というか奴が自費で女漁りに出かけてくれれば、俺は独りで部屋を独占できる。あまり激しくもない戦闘後のギギナは熱を持て余している様子だったので、我慢できずに発散場所を求めて彷徨い出る可能性は高いだろう。
 仕事自体はその日の間に決着しており、後はエリダナに帰って報告と報酬を受け取るという、ある意味では最も緊迫する瞬間が待つ状況。それでも実際の肉体的危険は去っているから、俺としては気は楽だった。

 部屋に入るなり目に飛び込んで来たのは、寝心地の良くなさそうな寝台だった。
 清潔ではあるようだが、硬そうなマットは値段相応のものだ。
 ベッドフレームはヘッド部分が柵状になっていて、不意にジヴと楽しんだプレイが脳裏に過ぎった。我ながら腐った発想だが、手錠とか紐とかを使うなら非常に都合良さそうな柵だなあと……思った俺自身が数時間後に緊縛プレイを実践することになろうとは、その時点では思ってもみなかったが。しかも、束縛される側でなんて。
「―――ガユス」
 そして、ハジマリを告げたのは奴の呼びかけだった。
 妙に感情の抑えられた低い声が耳に届き、概ね平穏に終わった仕事にそこまで鬱屈が堪っているのかと溜息を吐きそうになる。戦闘で発散できなかった行き場の無い衝動がもやもやと残っているギギナはピリピリしていて、やたら空気が緊迫している。さっさと女でも買いに行かせないと危険だ。一応は本気じゃないはずのじゃれあいが、うっかりと死に繋がるのはこんな日だと思う。いっそ俺が酒場にでも繰り出すべきか。しかし前衛のような体力オバケでない身としては、今晩はゆっくりと休みたい。宿を取ったのも半分以上は休息を求めてのことだ。明日は、エリダナまで独りでヴァンを運転せねばならぬのだから。
「何だよ、金がない以上同室なのは仕方ないが、鬱陶しく俺に絡まずに何処へでも出ていけ。お前ならタダでも何とかなるだろ」
 割と非道なことを言い放ち、ごろんと寝台に寝転がる。スプリングの効きはイマイチでも寝るのに不足というほどでもなく、疲労の溜まった身体は寝心地にこだわるほど繊細ではない。
 しかし、大型単車レベルの重量が上から圧し掛かってくるとなれば、話は別だった。
「な、に考えてやがる、どけよっ!」
 こんな重石を抱きしめながら熟睡出来る奴がいたら、それはマゾだ。というか人類ではありえない。
 俺は立派に人類なので、というか寝台の上でギギナに乗っかられる体勢なんて、想像したくもありません。よって実践はもっとしたくない!
「寝台の上で考えることなどひとつしかあるまい」
「……………………はああ!?」
 手際よくシャツを剥いでいく男の目的は、相手の性癖をよく知るからこそ意外であり、納得できるような気もする。
 女好き――というと語弊があるだろうが、絶倫漁色王が娼館も無い辺境で数日を過ごした挙句、退屈な戦闘で鬱屈したモノの吐き出し先を求めた経緯はわかる。しかし、そこで相手に自分を選ぶ心理は理解しがたかった。
「ギ……ギナ、冗談はほどほどにしとけ。俺は疲れて眠いんだ」


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41
冬コミの新刊のために書き出した緊縛プレイ18禁…になるはずだったもの。
全部ボツった部分が切ないのでこちらに。完成版は別の話に成り果てました……
(07/01/04)