本当は好きじゃないのに、せっせと形の良いもの、色の良いもの、感触の良いものを無意識に(いや、これかなりの語弊だ)選んでしまっているあたり、相当健気だと思う。
ぴったりなサイズを選んだ後、店にある、出来るだけ硬くて大きいものを、一つ買う。
その他にも小振りなものを幾つか。
手先が器用っていうのは、存外特でも何でも無いのだ。
沸騰した湯に丸々一個放り込んで、ぷくぷくと浮いてくるヘソの辺りを菜箸で突きながら、これからのことを考える。
さて、どうしたものか。
あれのことだからきっと有無を言わさず押し倒してくるだろうし、それを逃れる術も理由もない。
惚れた腫れたの関係では無いのは重々承知だ。
これは恋ではないのだから。
ならば何かと問われれば。
やはりそれも恋だとしか答えようがない。
言葉は実に便利だ。
その明瞭さも、曖昧さも。
全ては発した本人にしか理解することを許さない。
それを相手に伝えるための言葉はもはや言葉ではなく、音。


すっと菜箸の先端が通ったのを確認して、湯からあげる。
湯気がたつ。
上面に包丁の先端でぐるりと円を描き、ひょいと持ち上げて取り外す。
底が抜けない程度に中身をくりぬいて、種と実に分ける。
種は干して保存しておいても良い。煎って皮を剥いて食べても良いし、煮出してお茶にするのも良い。
実を裏ごしして、卵と砂糖、温めた牛乳を加えてさらに裏ごし。
手間が掛かる。
これを食う奴にも手間が掛かる。
秤にかけるのは失礼というものだろう。
生クリームを入れて、さらに裏ごし。
ほんの少しの塩。
これを入れることで甘さが引き立つのだ。
くりぬいた所に流し込んで、耐熱バットに入れて湯をはる。
あとは文明の力にお任せだ。
焼き上がるまでしばし待つ。


さてどうしたものかと考えて、小振りなものを一つ手に取りヘソを包丁の先で取る。
ワタをくりぬいて中身を空っぽにする。
中身は皿に取っておいて、後でスープにでもするか。
あとはいよいよ顔なわけだが。
さて、どうしたものか。
憎き男が震え上がる程の強面にしてやろうか。
いっそのこと絵日記と称するあのおぞましい記録からなにか引き抜いて貼り付けてやった方が魔よけになるのでは、と考えて、それを実行するにはあまりにもリスクが大きいと断念する。
魔よけが悪そのものになってしまっては元も子もない。
大人しく目を三角形に切り取り、口をぼこぼこと歯抜けにする。
なかなかの出来映えだ。
残りも同じように仕上げる。
テーブルの上にそれらをトントントン、と並べ、少し離れて眺める。
うーん、なかなかどうしてこの職人芸。
この日一日で命ついえるのは些か酷な話ではないか。
だが分かって欲しい。
誰かが命を長らえるためには、誰かの命が犠牲にならねばならないのだ。
分かってくれるだろうか。
じっと見つめ合って、ありがとう、と良いように解釈する。
先程よりも心なしか目つきの悪くなったそれらを抱えて棚の上に並べ直す。
そして残る大物に手を伸ばした。


軽やかなメロディが聞こえてきた。
いそいそと戻り、出来映えを確かめる。
表面に微かな焦げ目。
竹串を刺してもくっついてこない生地。
微かに香る甘い香り。
完璧だ。
完璧すぎる。
でも本当は好きじゃない。
小さなジャック・オ・ランタンが宙を舞う。

「今年は増して器用に作ったようだな。よくも飽きずに、」

受け止めて、しげしげと眺めてジャック・オ・ランタンを置く。

「お前こそ、毎年毎年よくも飽きずに同じことを、」
「それは貴様が毎年毎年同じことを飽きもせずにするからだろう?」
「好きでやってるんじゃない。第一俺は南瓜の加工食品が嫌いなんだよ」
「ならば何故毎年毎年飽きもせずに作るのだ」
「お前が毎年毎年懲りずに同じことを繰り返すからだろう?」
「言ってくれと言わんばかりに準備をする貴様の為を思ってしてやっているのだ。感謝こそされ、恩着せがましい不景気な顔で見られると私までこの領収書を破りたく、」
「なっ!!!お前また認知書にサインをっ!」

小さなジャック・オ・ランタンが宙を舞う。

「これは私に対する当てつけか?」

受け止めて、コトリと机にジャック・オ・ランタンを置く。

「そっくりそのままお返ししますわ、この偏愛狂者め!」
「一丁前に妬いているのか?」
「んなわけあるか!惨めすぎるだろ!」

小さなジャック・オ・ランタンが宙を舞う。

「自覚はあるのか…」

受け止めて、コトリと机にジャック・オ・ランタンを置く。

「…………」

本当は好きじゃない。
「はいこれ今年のお菓子。丸ごと南瓜プリンですどうぞ召し上がれ」
「私はまだ何も言っていない」
「去年と同じだろう?悪戯という名の養子増やしはまっぴらゴメンだからな。今年は先手を打ってみた」
「丸ごとにも程があるな」
「芸術作品だ。1週間程眺めてから食せ」
「腹を下せと言っているのか?」
「そう聞こえた?」
「聞こえた。ならばその1週間の間、私はどんな菓子を食べていればいいのだ?」
「食べたいもの食べたら?だってもう魔よけは俺の側を離れたんだ。残る供物は俺だけだ」
「それこそ1週間眺めてから食すか?」
「今すぐ食べてくれなきゃ悪戯しちゃうよ」
「そのデカ物を被せられるのだけはゴメンだ」
「チッ」


大きいジャック・オ・ランタンは優しく床に置かれて、
あとはただ、甘い南瓜の匂いと、
ひとつまみの塩が降りかけられる音だけが響いていた。







唯のハナさまより頂いたハロウィンフリー小説。
悪戯してくれなきゃお菓子をあげないよ、ということでしたが。
ギギナのお菓子って、彼が甘くて美味しいと思うのは…何なのでしょうね。
ありがとうございました!