本当の馬鹿というものは、殺しても許されると思います。


「――そんなものの、何処が美味い」
 煙草を吸う俺を見ながら、ギギナが眉を顰める。
 いつも通りと言えなくもない繰り返し。俺はふふんと鼻で笑ってやった。
「お子様味覚のギギナにはわからない楽しみなんだよ」
「貴様、私を愚弄しているのか」
「うわあ自分が馬鹿だって自覚が出てきたのか。凄い進化じゃないか、おめでとうギギナ!」
「…………いい度胸だ」
 底冷えする声音が返され、すわ屠竜刀が飛んでくるかと身構えるが。
 恐ろしく意外で不調を疑いたくなることに、ドラッケンは眉間に皺を作っただけで暴力に訴えてはこなかった。どうしたんだギギナ。とうとう本当に頭がヤられたのか。
「煙草は寿命を縮めるどころか腰痛の原因になるそうだぞ。それほど己を苦しめるのが快感か」
「――……幸いにして一応鍛えているもんで、ギックリ腰には縁がない」
 まあアレは突然なるとも聞くけど。駆け出しの頃ならともかく、最近では筋肉痛とも縁遠い。まだまだ若いんだし。ギギナの運動量には敵わなくとも、俺だって運動不足には成り得ぬ生活を送っているのだ。ニコチン中毒ってほどでも無いんだから、放っておけよ。
「だが貴様、よく腰が痛いと言っているだろう」
「…………はい?」
「だから、朝になると、腰が痛くて起きられないと言うだろうが――いつも」
 一瞬、聞き違えかと思って脳タリンなドラッケンの顔をみるが、ギギナはしごく真面目な顔をしていた。
 それは己が原因であると、意識しているのか否か。
 いや、確信犯だろうが馬鹿の戯言だろうが、俺の取るべき行動は変わらない。
「ギギナ……いい子だから、其処を動くなよ?」
 清々しく爽やかに朗らかに。
 断罪者ヨルガを片手に近年稀にみる極上の笑顔で囁く。
 途端にギギナは失礼にも、ぎょっと顔を引き攣らせながら身を引いた。ああ、こんな顔も滅多に見ないな。だけどもっとトラウマになるくらいに学習させないと。我が愛剣よ、其の名に相応しい仕事をさせてやろう。今こそ、この糞ッタレなドラッケンを断罪し、人の道というものを教えてやるのだ――さあ、忘れられない思い出を作ってやるぞ?


 もう二度と、馬鹿なことを言い出さないように。



《終》


つまり、うっかりと思いついてしまった微妙な下ネタです。
何故、ガユスが朝起きられないのかは……もごもごと。
テレビで腰痛の特集を見て、つい。
すみません、ごめんなさい。