『言いたいこと、言わないこと』


 とりあえず、目の前で相棒と談笑するイーギーとの距離を目算。何呼吸で殺せるか試算する。
 殺気を感じて華剣士と眼鏡置きが振り返るが、無言無表情を貫く。すぐにガユスは興味を無くし、突付く根性のない青年は沈黙。この程度で黙るなら、最初から身を慎めばいいものを。
 ガユスにとってギギナが殺気立つのは日常なので、気にしようともしない。イーギーだけが、剣舞士の様子を窺っている。
 原因に思い至らぬらしく、愚かにもガユスから離れない。逃げるか向かってくるか態度を決めれば、さっさと始末してやるのだが。
 はっきりと言えば華剣士は退くだろうか。自分のものに近付くなと、わかりやすく宣言すれば。
 しかしあまりに明白な所有権を主張するには、いささか面倒がつきまとう。愛玩動物はうるさく口を動かすだろう、そんな権利はないのに。

 故にギギナは黙ったままガユスを睨みつけ、周囲を威嚇する。
 鈍い相棒がいつものことだからと、気にしないのを気にしながら。