先程から、ずっとガユスの視線を感じる。
彼曰くの無駄遣い、ギギナにとっての必需品を購入した文句をつけられた後、聞く耳持たぬという宣言のつもりで雪豹の姿で相棒に背を向けていたのだが、まだ愚痴り足りないらしい。
顔も見たくないという態度で、ぷいとそっぽを向いた猛獣の尻尾が不機嫌に床を叩く。
タンタン、と軽快な音が響く中、やがてガユスの絶叫が混ざった。
「うわああああダメだ!」
苦悩に満ちた叫びを上げた男は、ぐしゃぐしゃと赤毛をかき混ぜて身悶えている。
驚いて何事かと見つめると、ガユスは殺意に満ちた眼差しをギギナへぶつけてきた。
「お前は存在しているだけで、俺の邪魔になる……!」
ギギナの想いをカケラも理解していない言葉だった。
他の誰に言われても気にならない、ガユスにだけは告げられたくない拒絶に、ちりちりと胸が痛む。
「――貴様、よくも面白いことを言ってくれたものだ」
獣のままでは、耳も尾も感情を露わにしてしまいそうで、人型に戻ると平静を装ってガユスを睨みつける。
一言でギギナを天国にも地獄にも連れていく相棒は、本日は舌戦をお望みらしい。ならば存分に付き合ってやろうと、そう思ったのも束の間、ガユスはふと気が抜けた笑みを浮かべた。
「………ギギナ」
「なん、だ?」
「お前に物凄く会いたかった。頼むからそこに座っていてくれ……その格好で」
「な、んだと……?」
どういう風の吹き回しかと疑問符を浮かべれば、複雑な想いを秘めた微笑と出会って直前とは正反対の意味で胸が痛み出す。
ところがギギナが甘やかな痛みに酔っていられたのは一瞬だけだった。
「視界の隅にお前が居ると、それだけで落ち着かないんだ」
「なに……?」
「お前を抱き締めて、愛してるって叫びたくなる。俺は、どうしても……っ」
「ガユス、それは――」
「むちゃくちゃ腹を立ててるはずなのに、一日一度は雪豹に触らないと我慢できないんだよっ!」
「貴様は結局そこへ行き着くのかっっっ!」
ギギナの切ない絶叫は、事務所に虚しく轟いた。