事務所の扉を開き、よれよれの身体を内側に滑り込ませる。 疲れきった腕には戸を支える力さえ満足に残っておらず、手を挟まれそうになる。 一応は五体満足に戻ってきたのに最後に指を無くしたりしたら嫌だなあと、思いながらも身体は動かない。考えられぬほど鈍った俺の反応を補ったのは、背後から伸びてきた力強く優美な腕。まかり間違って相棒と呼んでいる、仕事中だけは頼りになる気がしないでもないドラッケン族だった。 今日の仕事はいつもに増して酷いものだった。 これでもかと押し寄せてきた敵の団体様御一行は、ギギナに大量に押し付けてなお、お節介にも俺にまで構ってくれたのだ。ひとりひとりは大したこと無いのに、数の暴力とは素晴らしい。優秀な俺が的確な援護を行うのが、相当に嫌だったらしい。先に後衛を狙えと言う声が飛んだ瞬間、思わず「俺が死んでもギギナの暴走は止まりませんよ、お客様」とか言いたくなったが、というより直後からかえってギギナが張り切ってた気がするんだが。これを別名、自業自得という。もしくはやぶへび。 何がムカつくって、同じ仕事をこなして、しかもこいつの方がハードだったはずなのに、ズタボロになっている俺に対してギギナはあくまでも涼しい顔をしていること。体力の差といってしまえばそれまでだが、不条理に思えてならない。ついでに治療担当がギギナなのも問題かもしれん。奴の気が済むまで、俺はズタボロになって治癒咒式が必要な場合でも転がってるしかないと。苦労するのは俺担当、なんて全く笑えやしないが、それでも。 ――――それでも。 事務所の扉を開き、よれよれの身体を内側に滑り込ませて。 背後から続いて入ってくるギギナは、あっさりと俺を追い抜いて椅子に腰掛けネレトーの手入れを始める。さっそく次の殺戮の準備かよ、さすが殺人快楽症のドラッケンは神経が普通とは違うなどと嘲笑ってみれば屠竜刀が一閃、俺の頭上をかすめていって。 ああ、帰って来たのだと息を吐く。 |
《終》 |