憎しみあう5つのお題





1. それ以上近づくな

 事務所で黙々と書類整理をしていた俺は、ずっと苛々していた。
 その原因は当然のようにギギナだ。しかし今日の――近頃の苛立ちは、奴の量産する請求書が原因ではない。多分もっと根が深く、性質が悪いものだ。
 最初は気のせいかと思っていた。しかし誤魔化せぬほど確実に、絶対に自意識過剰ではなく、奴に凝視され続けていると断言できる。ここ最近はずっと。
 糞ドラッケンの思考内容は謎だが、会う度に執拗に視線がまとわりついてくる。ギギナに延々と見つめられているなんて、想像しただけで背筋が寒くなる。ムカつくと同時に落ち着けない。何があったのだ、何が奴を変えたのだ?
「……どうしたギギナ、とうとう俺の魅力に気付いて眼が離せなくなったのか?」
 嫌がらせだというなら、はっきりさせようじゃないか。ネレトーを磨きながらもチラチラと視線を流してくる男に、ストレスは頂点に達する。睨みつけた俺を、男は真正面から見返して――どこまでもギギナらしい、傲岸不遜な態度で言い放った。
「ああ、そうだ」
「…………………………は?」
「赤毛が陽に透けると血のように鮮やかだとか、瞳が夜空のように暗い青だとか、意外と肌が白くて触れると気持ちよさそうだなどと思って目が離せない」
「……………………………………ナンデデスカ」
「貴様、救いようもなく鈍いな。何故かわからないのか?」
 脳が正しい言語理解を拒否する。かくかくと機械的に反問した俺を見て、男はふっと頬を緩めた。短くない付き合いの中で、初めて見る『優しそう』な微笑み。そんな初体験は永遠にしたくなかった。うっかり反吐が出そうな恐ろしさだ。
「どうしたんだギギナ、今はそういう返事をする場面じゃないだろう。ネレトーを振り回しながら、気持ち悪さに鳥肌が立った代償を命で償わせようとすべきだぞ!」
「そんなに死にたいなら殺してやっても良いぞ…………寝台の上でな」
「な、なな、なにを言ってるんデスかギギナさん!?」
「冗談だ――今は」
 答が即座に戻ったので心底安堵――しかけて。なんだか不穏な表現を聞きとがめてしまう。俺の心の平安のためには、しっかり突っ込んでおかねばならぬ部分だ。
「えー、や、その、今はって限定がスゴク気になるんですけども。洒落になってないぞ本気で」
「大丈夫だ、もう少しの間は。貴様を抱きしめて押し倒すところなど想像するだけで吐き気がしてくるからな」
「あ〜……そうだよな。それでこそギギナだ」
「うむ。もう少し経てば諦めもつくだろう。楽しみに待っていろ」
「…………諦めって、何の?」
 駄目だ聞くな俺!
 脳内で冷静なガユスくんが絶叫していたが、好奇心旺盛なガユスさんから詳細を確認しろという指令が出る。そうだ、知能に不自由なドラッケンが、正しく喋れてないだけだよね。うん妙な誤解は正しておかなくっちゃ。
「貴様などに惚れている己を肯定して、貴様以外を抱いても満足できぬと納得すれば、諦めて積極的に口説き落とす気になれるだろうからな」
「………………い、いま、さりげなく失礼っていうか不穏なことを口走らなかったか」
「復唱して欲しいのか。一度の告白で信じられぬとは、貴様はやはり軟弱者だな」
「―――…………ギギナ」
「なんだ、移動式眼鏡置場。か弱いあまり眼鏡の重さにも耐えられなくなったか。顔が赤いのか青いのかわからぬ凄い色に変化しているぞ」
 どこまでおかしくなったのか、何だか心配してるようにも見えてしまう表情を浮かべた男が、ゆっくりと近付いてこようとするのを、慌てる余り椅子を蹴倒しながら立ち上がって必死に制止する。
「待てギギナ、そこから動くな。俺の半径5メルトル以内に入ったら、正当防衛ということで本気で攻撃するからな」
「私がその気になれば、5メルトルの距離など無いも同然だ。往生際が悪いな」
 恐ろしいことに、ギギナの目がとてつもなく本気なのがわかってしまう。基本的に無表情な男の、わかりにくい感情を読み取れてしまう己を呪いたくなったが、奴の本気を理解せずに悲惨な目にあうのは却下だ。
 つまり俺のみたところ。
 奴はとてつもなく真剣に語っており真摯な眼差しで訴えており、つまり俺のみたところ、本気で俺に何かを請うているのだ――何をってそりゃなんというか。
「それ以上俺に近付くな――っっ!!!」
 がくがく震える足を叱咤しながら、俺は血相を変えて絶叫した。

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(宣戦布告。告白まがい。ガユス引きまくり)
ギギナさん、開き直るまで既に秒読み開始中。
ハジメテとかコクハクとかいう、基本のネタを何度でも反復したくなります。
どっちからかとか、自己肯定してるか否かとか。

愛憎同盟さまをお見かけした時、まあなんてギギナとガユスにぴったりなお題なんでしょうと感動しました、が。使用者に問題があったらしく、憎みあってないというか寧ろ笑いをとってるというか……スミマセン、趣旨に反する悪意はないんですと主張です。





2. 一夜限りの休戦協定

 夜更けまでかかって、ようやく<異貌のものども>の退治は終了した。
 雪が積もる冬の森を彷徨いながらの掃討は、報酬額の割に面倒な内容だった。サザーランからの依頼だという時点で予想した通りだ。
 徒労感を募らせながら、夜を徹してエリダナに戻る熱意が生まれる訳もないが、近辺には宿も民家もない。しかも季節は冬で、雨どころか雪の降りそうな生憎の空模様である。火を熾して野営する気にもなれず、仕方なく我らがバルコムMKYの中で休息を取ることにする。
 しかし、当然ながらエンジンを止めた車内は寒い。
 アイドリングは環境に悪い、というのは言い訳で、要するに経費節約の一環。無駄に放熱活動が盛んな男は自分が平気なものだから、特に文句も言わずに目を閉じてしまった。恐らく熟睡してはいないだろうが、充分それで休息になるのだろう。うらやましいを通り越してムカつく話だ。金遣いが荒いのは絶対に俺じゃないのに、苦労するのは俺だけだなんて。
 生体系ではなくとも咒式士の端くれ、凍死するほどやわでは無いが、しもやけくらいは生産してしまいそうだ。
「う〜寒い。寒いったら寒い。なんでこんなに寒いんだ」
「ガユス……今すぐ暖かくなる方法があるぞ?」
「何だよ」
 がたがた震えている俺に、不意にギギナが声をかけてくる。横でこれだけぶつぶつ言ってると、さすがに寝てもいられないか。睡眠妨害に怒るでなく、穏やかに話しかけられたので少し驚く。なんというか嫌な予感。うまい話には裏がある。というか非常に楽しげな笑顔は何なのかな、ギギナさん。
「火も無い寒空の下で暖めあうなら、素肌で触れ合うのが一番だ。軟弱な相棒を哀れんで、身体の内側から熱を分けてやろうではないか」
「な、おま、いやいやいや遠慮するっ!」
 その言い草は、ひょっとしなくても貞操が危機なんですけど、気のせいじゃないだろ!
 助手席から今にも身を乗り出して覆いかぶさって来そうな男を、ぶんぶんと首を振って拒絶する。
「この私がわざわざ暖めてやると言っているのだ……おとなしくしていろ」
「触るな、寄るなって言ってるだろ〜〜っっ!!」
 車内で必死の攻防が繰り広げられる。いや、必死になってるのは俺だけなんだけどね。
 狭さが幸いしてネレトーは振りまわせないが、基本の腕力差はいかんともしがたい。こっちだってヨルガは使えないし。いざとなればマグナスから自爆を承知でアイニをぶちかます覚悟で決死の威嚇。我ながら毛を逆立てた野良猫のような態度を見て、ギギナはしばし目を細めて沈思黙考。その標準よりコンパクトな脳内をどんな思考が駆け巡ったかは不明だが、やがてじゃれ合いに飽きたかのように、ギギナの腕から力が抜けて、元通りに助手席に収まる。
 何とか俺が無事だったのは、小競り合いに勝利したというより、情けないがギギナに見逃してもらったというべきか。再び助手席で眼を閉じた男を尚も警戒し、俺は出来うる限り窓際に位置どった。
 それにしても寒い。あまりにも寒い。既に足の指先は感覚が無く、凍傷まで後少しという状態だ。多少は運動した方が、まだしも身体が温まるような気がする。この場合の運動とは、いかがわしい意味でなく純然たるスポーツや、せめて戦闘を差す訳だが。
 疲労は澱のようにたまっているが、長外套を着こんでいても逃れられぬ冷気が、気力と体力を奪っていく。睡眠をとっても回復にはならず、下手すると永遠の眠りにつきそうだ。
 はあ、と溜息を吐きながら。もぞもぞと動いて位置を調整、楽な体勢をとって眼を閉じる。だが寒いのは変わらぬ事実で、横に無料暖房器具があるのに放っておく手はない、ような。
 思い余った俺は、隣で黙って眼を閉じる男に視線を向ける。眠りの浅い男だ、まだ意識はあるはず。俺の視線を感じてもいるだろう。
 俺より薄着でありながら、ギギナは平然として寒がる様子はない。北方出身のギギナは、その出自と生体系咒式士としての特性から、寒さに異常とすら思える耐性を示す。恒常的に体内で働く咒式と相まって常に一定の体温を保持している男は、冷え性の人間を一人抱えたところできっと問題は生じない。
「ギギナ……もう少しだけ、近くに来てもいいぞ」
「何だ、襲われる気になったのか」
「いやいやそんな酔狂な気分にはならないけどな」
「今の台詞は挑発にしか聞こえなかったが。そうではないなら、傍にはいかぬことにしよう」
「…………そうだな」
 先日の恐ろしくも微妙な発言以来、俺達の間の距離は広がっている。俺が慎重に間合いを測っているのは勿論だが、正しくはギギナが自制して距離を取っている。取ってくれている。
 先程の戯言も口先でからかっていただけで本気では無かった、のだと思う。その均衡を俺から崩すのは危険だ。この真剣勝負は、最初っからあまりに俺の分が悪い。ギギナが力尽くで押すと決断した瞬間に、勝敗は決してしまう。
 その気になったギギナを阻むなど、俺には不可能なのだ。体力的には勿論、もしかすると精神的にも。だから絶対に自分から隙を見せてはいけない。明るい家族計画を捨てる気はないんだから!
 しかし。
 既に指先は痺れて感覚が失われ、白っぽく変色してしまっている。
 このまま夜を過ごすとなると、結構深刻に危険だったりしないだろうか?
 脳裏を過ぎる言葉が言い訳に思えるのは、気のせいだと思った方が精神が安定するから深く考えないとして、目の前の問題を片付けようじゃないか、うん。
「……ギギナ、あー、あのな」
「黙れ。先程からちらちらと私を窺って、そんなに煽り立ててどうするつもりだ。初めから青姦が望みとは、変態趣味もいい加減にしろ」
「誰がだっ! いやそうじゃなくってだな……その、」
 寒い。ほんっとうに寒い。恐らく気温は氷点下に達しているだろう。
 命と貞操を天秤にかけるなら、どちらを取るかは…………時と場合と相手にもよるが。
「――寒い、から。だから……」
 暖めてくれ、などと言い出せばマズいことくらいはわかる。
 しかし、やたら体温が高く安定している男に頼みたいのは、要するにそういうコトだ。奴の傍にいればひょっとして残党の襲撃があろうと安心だし、外気温からの攻撃にも耐えられるし……でも、本人の突撃で死ぬかもしれない。というか、その、ナニかされてしまいそうな。気はするのだが。
「今夜だけ……休戦ってことにしないか?」
 なるべく愛想よく笑って提案してみれば、返り来る深い沈黙。その間の長さに、いつにない緊張を強いられたが、やがてギギナはゆっくりと手を伸ばしてくれた。俺はほっと息を吐いて、ギギナの傍へとにじり寄る。
 躊躇いながらも促されるまま、ハンドブレーキを乗り越えて助手席へ移り、ギギナの上に乗っかるようにして腕の中へと抱き込まれる。ナニかされるか戦々恐々だったのに、奴はあやしげな動きは起こさず、背中に回した腕で慰撫するように触れてくるだけだった。そっと頭まで撫でられて、ぬくもりと心地良さに心が揺れる。髪を梳かれ、頬に添えられた手で上向きにされた時には、さすがにヘンなことをするなと睨みつけたが。
「……いい子にしていろ。寒いのだろう?」
「なんか、お前の言い方って凄い卑猥に聞こえるよ……」
 奴にしては珍しくも、嬉しそうに穏やかに微笑まれ、美貌の威力に毒気を抜かれる。
 これは、一夜限りの休戦協定。
 今宵だけは全て忘れて、ぬくもりにすがってしまおう。
 心の中でそう決めて、男の腕に身を任せた。

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(ぬくもりを求めて接近。ガユス不覚にも傍にいて安心)
不穏な気配に気付いてるのに油断ぎみのガユス。ちょっと距離を縮めてしまった気がする第二弾です。





3. 誰があんな奴のこと

 あの一夜から、俺の思考はどうもおかしくなっている。
 突然にあの夜の出来事が脳内に再生されて、はたまた告白まがいの発言が幻聴のように脳裏で繰り返されて、ギギナのことばかり考えてしまう。一度なんか目の前にいる男をじっと見つめながら思索に耽ってしまって、ギギナに変な顔をされた。多分、奴には相当あやしまれてるだろう。
 事務所にいても、下手をすると仕事で外に出てる時でさえ。過ぎるのは、ギギナに抱きしめられて(ヘンな意味ではなく)眠った夜の記憶だ。
 自分より大きな身体に包まれて眠るのが、酷く安心しただなんて。
 己の頭がどうかしてしまったんじゃないかと、不安に駆られる。
 凍えて奴にすりよったあの夜。こいつは偽ギギナか、実はギギナの皮をかぶった善人じゃないのかと思うくらい、奴は紳士的にふるまった。欲情すると宣言した相手に対して無防備極まりない行動に出た俺に、意外にも何もしなかった。いや期待してたんじゃないぞ、間違っても。ただ多少はナニかされても仕方ないかと覚悟してたのは確かだ。
 もしも俺だったら、好意(だと分類していいだろう、一応)を表明している相手が、二人きりの車内で腕の中に飛び込んで来たとき、手を出さずにいられるだろうか。ただ温もりを与えるだけで我慢できるだろうか。
 正直言って、それは男への拷問というか、据え膳喰わぬ恥さらしという気がしないでもない。いや本当に、誘った訳じゃないから俺としては助かるんだけど。それを、そこまで大切にしてくれてるんだ〜と感激するか、実は大して興味ないんだろうと落胆するかは受け取り方による……って、だから俺はギギナに襲われたかった訳じゃないんだって!
「何を独りで百面相に挑戦している」
「誰のせいだと思ってるんだよ……っ」
 堂々巡りを続ける思考に唸り声を洩らしていると、呆れたようにギギナが声をかけてくる。そこにいるのはわかってたのに、それでも奴の声に驚いて背筋に震えが走った。ちなみに間違っても美声に感じて震えたんじゃない……けどやっぱり、俺は何処かおかしくなってしまっている。
「……何だ、私のことを考えていたのか?」
 返ってきた言葉を聞いて、しまったと思った。案の定、にやりとほくそ笑んだ男は、機嫌よさげに近付いてくる。
 つい動揺して視線をさまよわせるが、そんな真似をすればケダモノは益々付け上がる。口角を吊り上げた笑顔は、獲物を前にした残酷な捕食者のもの。今度こそ喰われる危機から逃れる術は無いのかと、半ば諦めかけてしまうのは……いやいやこんな奴にほだされてどうする。
 うろたえる俺を救ったのは、鼻腔をくすぐる仄かな香りだった。
 ギギナから匂う、ギギナの趣味ではありえない残り香。つまり、さっきまで匂いが移るほど奴の近くに居た相手の――女の、気配。
 自らを多淫な雑食の漁食王へ売り渡す愚をようやく思い出す。そう、こいつのオモチャにされるなんて冗談じゃない。物珍しい相手を喰ってみたくなっただけで、俺がなびけばすぐに飽きて放り出すだろう。ギギナに落ちないオンナなんていないから、すぐ傍にいる俺が何年経っても奴におもねらぬのが面白くなくてからかっているんだ。男まで同じ反応を返すと思うな。
 相変わらず、ギギナは連日のように娼館に通っているらしい。
 それは、あまりに日常的な光景なのに、どうしてだか俺は不愉快だと感じる。暗く落ち込みそうになる。
 昨晩もその前の晩も更にその前の夜も続けざまに、ギギナが夜の街を女と連れ立って歩いてるのを目撃した。それを気にしたりムカつく筋合いじゃない、はずなのに。まさか俺へのあてつけじゃないだろうなとか思ってしまうなんて、更に有り得ない話だ。
 奴と自分を比べた時、女がギギナの見掛けだけに惹かれてふらふら寄って行くのはわかる。だがそれで生じる想いを、妬いているのだと表現した途端に不穏な気配が漂う。
 男の嫉妬は見苦しいというが、そんな男女差別はどうかと思うが、そうじゃなくて。嫉妬なのかと指摘された瞬間に浮かんだ対象が、女を大勢連れ歩いてるギギナではなかった気がしないでもないのが問題だ。ギギナが女にモテるのに妬いたのではなく、ギギナの横に誰はばかることなく立っている女が嫌だったとか、俺に告白めいた言葉を囁く癖に女に手を出すギギナにムカついたとか……どうしようもなく思考が危険だ。
 いちいち動静を気にする必要なんてない、そんな価値がある相手じゃない。悪趣味な戯言を本気にしたって、いずれは飽きて捨てられてお終いになるだけ。わかっているのに、ぐるぐる巡る思考は何度も繰り返し同じ場所へとたどり着く。
「どうしたガユス。そろそろ私のものになる気になったのか」
「……ふざけるなっ」
 すり寄ってきた男が耳元で囁く。囁かれた睦言に、ぞくりとしたのも気の迷い。気色悪かっただけで、重低音の声が腰にキたというのは気のせいだ。俺はそこまで愚かではない。他の選択肢があるのに、傷つけられるとわかっている道を選ぶなんてことはしない。
 目を逸らし、伸びてくる腕を避けて距離を取る。他人との接触を嫌うギギナが自分から手を伸ばすなんて驚愕の事態だとわかってはいる。それでも……比較対応で納得は出来ない。女達よりはマシに扱われているからって、どうだというんだ。
 睨みつければ呆気なく手は下ろされ、執着の薄さが証明される。いっそ強引に……なら、流されてしまえるのに。いや、そんな逃げ口上でどうする。毅然と跳ね除けなければ、分の悪い勝負に勝てないぞ。
 誰がこんな奴のことを、好きになったりするものか。
 懲りずに傍へ近付いてくる男を突き飛ばすようにして、俺は事務所を後にした。非力な俺の腕力では、よろめきすらしない嫌味な男が背後から呼びかけてくるが、徹頭徹尾無視しておく。その気になればギギナには俺を捕まえるなんて簡単だろうに、追ってくる気配はない。
 ああやっぱり。
 その程度の想いでしかないんだろう。

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(あんまりガユスが無自覚に挑発するから、やりたくて堪らない気分を発散するために黙々と娼館に通うギギナさん。のはずなのに。それを全く理解しないで、ムカつくというか傷ついてるらしいガユス)久しぶりな第三弾。