『台詞でお題』 ギギガユ?風味で選択10題 |
「生きるって事はさ、何かを諦めていく事なんだ」 遠い眼をしながら男が呟く。 憂いをおびた横顔は、見惚れずにおれぬ秀麗さ。 嘆くような低い声音は、玲瓏として凛と響く。 「生きるという事は、何かを諦めていく事だ」 知ってるよ。 だけど、最低限の人間らしい生活を夢見るくらいは良いだろう? それくらいは当然の権利だよな。 「寝言を言ってないで、さっさとその家具を返してこい!」 |
「……黙れ、その口にファスナー縫い付けるぞ」 いつものじゃれ合い以前の殺気の飛ばし合いの合間、口で勝てない奴が悔し紛れに吐いた言葉。 「……黙れ、その口にファスナーを縫い付けるぞ」 「おまえ、自分の相棒を役立たずにしたいのか?」 それより裁縫できるのか、おまえに。 あくまでも軽い気持ちで打ち返した言葉に、妙に深い沈黙が戻る。 何を真剣に悩んでいるのか。低脳ドラッケンの思考は、利巧な人間には理解不能だ。 しばしの後、哀れむような複雑な表情で見つめられて密かにうろたえる。 なんだよ、その可哀想なモノを見る目線は? 「いくら貴様でも、少しくらいは口以外にも役立つ部分があるだろう」 ……そんなことで考え込むんじゃねえよ! |
「自慢する人間と卑屈すぎる人間は嫌いなんだ」 目の前では鬱状態に入った赤いゴミが転がっている。 ある種の仕事後に、しばしば見られる現象だ。 くだらない些細な齟齬の結果に沈みきった男は、日頃の口やかましさが嘘のような有様である。余計に回りすぎる頭脳を自慢する眼鏡置きもムカついて仕方ないが、こうして半病人のようになった物体も目障りでならない。 視界の隅を過ぎるだけでも苛々してくる。 なのに放置するのもまた腹立たしい。 好きなだけ腐っていれば良いと思いながら、なぜか傍から離れられない。見ていると余計に苛々して、悪循環が繰り返される。 「自慢する人間と卑屈すぎる人間は嫌いだ」 呟きが聞こえたろうに動きはない。死んだ魚の如き目が、更にどろりと濁っていく。 いつもなら即座に反発して応えてくるだろうに。 仕方ないので、腐った生ゴミが鮮度を取り戻すまで、黙って隣に寄り添っておく。 |
「マジ、笑えねぇってその冗談…」 「貴様が好きだ」 「…………マジで笑えないぞ、その冗談」 日常的なじゃれ合いの狭間で、唐突に囁かれたひとこと。 柄じゃないんだからそんな台詞を吐くな。 慣れない真面目な顔なんてするんじゃない。 全然笑えないどころか、あまりに悪質な言葉に思わず仰け反る。 それでも奴が表情を変えずに詰め寄ってくるので、脱兎の如く逃げ出すことにした。 見苦しいのを承知で、見逃せと叫びながら。 ……追いかけて来なかったのは、冗談に過敏反応したから呆れたんだよな? |
「勘違いするな、遊びだよ」 くちづけの後でやたら真面目な顔でこちらを見るので、わざと嘲る笑みを浮かべる。 闘争しか頭に無い単細胞生物の癖して、真剣な目をするな。 本能に従う動物らしく、女だけ漁っていればいいものを。 華やかな見た目で相手を釣りあげるなんて、まさしく獣に相応しいじゃないか。 「勘違いするな、遊びだよ」 「――ならば何故、私から眼をそらす」 疑問形ですらない確認に、どうしても視線を合わせられなかった。 しょせんは俺も釣られた魚だなんて、認められると思うか? |
「心配しなくても、信じてないよお前の事なんか」 わかったとか、もうやらないとか。 あいつの言葉はいつだって口先だけ。 無駄遣いはよせと言ったその日に、新たな請求書が机に置いてあるのも日常だ。 いっそ戯れを口にする気になっただけでも譲歩だ、みたいな。 言動と行動とがまるで一致していない。 だから、ひどく笑える戯言を聞いた次の日の朝、鼻につく香水の匂いがしても気にしたりはしない。ああやっぱりと嗤うだけだ。 朝帰りを見つかったからって、一瞬でも動じるなんてらしくない。 最初から、ふてぶてしく開き直ってればいいのに。 俺に何を期待しているんだ? 「心配しなくても、信じてないよお前の事なんか」 いっそ面白そうに笑う意趣返しくらいは、俺の特権だろ? ちらりと浮かんだ情けない顔を楽しむのもね。 |
「お前の存在する理由を教えてやろうか」 「貴様の存在する理由を教えてやろうか」 酷く哲学的な言葉でも、こいつの口から出ると嫌がらせにしか聞こえない。 おキレイなのが見かけだけじゃなく、馬鹿なことを呟く声まで麗しいのがムカつく。 「貴様は延々とくだらない悩みと戯れていればいい――ずっと、ここで」 示されたのは奴の隣。 奴の見てくれや強さやその他諸々に憧れる気の毒な連中なら、在りたいと願ってやまぬ場所。 ただし常識を愛する俺にとっては、別に有り難がる理由も無い位置である。 なにしろ其処は危険極まりなく、もれなく災厄が降って来る。俺が呼ぶ災いもあるけどね。 あまりにもあたりまえで。 此処にいて良いかどうかを、おまえに聞く日なんて永遠に来ない。 どうせこの場所まで失ったら、存在を続ける理由もない。 |
「お前が隣にいなきゃそんな無茶しないさ」 闘争が終わってみれば、眼鏡置場が地べたに転がっていた。 コレは本当に、頭の回転を売りにするイキモノなのだろうか。 もう少しくらい要領よく、器用に生きればいいものを。 志を貫きぬく強さを持たぬくせに、卑劣に徹することも出来ず。 毎度のように目の前で死にかけられては、故意かとすら勘ぐりたくなる。 治療を施しながら、不意に疑問を口に出す。 「……貴様、私がいなければどうするつもりだ」 「おまえが隣にいなきゃ、こんな無茶はしないさ」 酷く当然のことを言う調子で、投やりに吐き出された言葉に沈黙する。 不本意ながら絶句したと言ってもいい。顔に出なかったか心配なくらいに。 どこまでも他力本願な依存しきった態度で、改善する予定はないときっぱり宣言された訳だが。 さて私は、怒るべきか喜ぶべきだったのか。 |
「寝惚けて妖精と会話するお前が嫌いだ」 問:起き抜けに可憐な黒い妖精と対面したらどうなるか(まずは悲鳴だな) 「――貴様、いきなり破壊活動に勤しむな!」 「うわあ、おまえに言われたくないな〜」 「黙れ。……何事かと焦っただろうが」 「へええ、ひょっとして俺を心配してくれたのか?」 「唐突にキッチンが爆発したら、敵の襲撃かと勘違いするだろう!」 「ああ敵だとも! 黒い妖精は社会の敵だ!!」 「たかがゴキブリごときに、アイニをぶちかますな」 「黒妖精をなめるなよ、あいつらは某枢機卿よりしぶといんだからな!」 「だからといって、事務所ごと破壊してどうする!」 「わあ、おまえに理性的にツッコまれるなんて凄いく・つ・じょ・く」 「……寝惚けて妖精と会話する貴様が心底嫌いだ」 「黙れ。起きながら家具と会話するような奴に言われたくない」 答:ギギナに常識的に怒鳴られます(なんて珍しい!) |
「あはは、世界で一番嫌いな名前だ」 「……ギギナって誰? そんな請求書を量産しそうな名は知らないな〜」 酔っ払いは人間じゃないと思う。 あの凶暴なギギナでさえ、何かを諦めきった顔で突っ込んでこない。 うかつに絡んできたら、十倍にして絡みかえしてやるのに。臆病者め。 「あはは、世界で一番嫌いな名前だ」 もう止めとけと制止するアルリアンを邪険にしながら、更に酒を呷る。飲まないとこんな人生やってられない。ひとの数少ない楽しみを奪う気か。しかも奢りだってことは、俺に死ぬまで飲めってことだろ。違うというなら俺を論破してみせろ。やれるもんならやってみろ。 「ギギナの価値は顔だけだな。戦闘時はそれだけプラスで収支決算しても足が出ないんだけどなあ」 「戦闘してないときは?」 「もちろんマイナスに突入してるに決まってるだろうが!」 つい突っ込んできた世界の真理を知らぬ者へと、じっくり事実を啓蒙する。その長い耳はよく聞こえてないのか。奴がどれだけ駄目なイキモノか、おまえにもわかるようじっくり語って聞かせてやろう。 「……じゃあもし、奴が顔に大火傷でもしたら相棒を辞めるのか?」 テーブルに懐きながらクダを巻いてる俺に、度胸満点のアルリアンのひとこと。 むくりと起き上がって真正面から顔を見れば、どこか緊張した面持ちが目に入る。今のはかなり命知らずな暴言じゃなかったか。いや俺も同じようなこと言ってるけどな。 「――なにバカなこと言ってるんだ」 ほら背後に気をつけろ。単細胞から進化できてないイキモノの目つきが不穏だぞ。ギギナもピリピリしながらこっち睨むのは止めろ。俺が何をしたっていうんだ。 「……辞める訳ないだろ」 ああうるさい。 酔っ払いに整合性を求めてどうするんだよ、なあ? |