春の盛り



 猫がぎゃーぎゃー叫び声を上げている。
 仕方のない自然の営みだが、うるさくてたまらない。


「――春だからな」


 夜。
 車を締め切って眠ると、暑い季節に差しかかっている。
 我慢できずに窓を開けると、途端に大音量でサカる声が聞こえてきた。
 敗れたらしきトラジマが、黒い猫に追い立てられて逃げて行く。
 血の臭いを漂わせた勝者は、ご機嫌に喉を鳴らして繁みへと消えた。


 昼。 
 運悪く遭遇した死神は、血に飢えてうっとりと微笑んでいる。
 暑苦しい黒服と帽子で包み込まれた姿が、いつもより楽しげに見えて首を捻る。
 獣が舌なめずりをする、物騒な姿を連想した。
 もしやこの死神も、血が騒ぐというのだろうか。


「――春だもんな」


 横でへたれる相棒を尻目に、溜息混じりに煙草を吐き捨てる。
 命と恋と。
 賭けるモノは違っても、こいつも本能に支配されているのか。


 同レベルかと蔑んだ視線を向けながら、タレた相棒を引っつかみ。
 脱兎の如く死神の前から駆け出した。