無価値



無駄な命なんてない。


彼は、言いきって死神を睨む。
無節操に死を振り撒く相手への憤りに、その顔は歪んでいる。
こんな時ばかりは、いつもの怯えた子供の如き仕草もなりを潜める。
うろたえて逸らされてばかりの視線も、揺らぐことはない。


意味の無い命なんてない。


偽り無くそう信じているらしく、まっすぐに見つめ来る瞳には、一片の躊躇いも存在しない。
疑わず命の価値を信じている、微笑ましいまでの愚かしさ。
すべての人間はキレイなもので出来ているという、確信に満ちて。
幼子でさえ、汚れを知るこの時代に。


生きて在るだけで、意味があるのか。
生きて為すことにこそ、意味があるのではないのか。
無目的に生きているものに、どんな存在価値があるというのか?
たとえば其の命が消えても世界が何も変わらないなら、その命に如何なる意味があるのだ。


――無価値な死は、存在するというのに。


微笑んで告げた死神の言葉に、彼は眦険しく肩を震わせる。
恐らくは、湧き上がる怒りを堪えるために。


たとえ、無意味な生は無いのだとしても。
きっと、無意味な死は存在している。
その皮肉を、死神は静かに嘲る。


――それとも彼は、死にすら無駄はないと論じるつもりだろうか?


気まぐれな死神に殺されることが、その命が生まれた意味だと言い切るのだろうか。