獣のごとく


 ずっと昔の話だ。
 人間と動物の違いは何処だと思うか、問うたことがあった。
 応じていわく『理性を持たず、本能のみで生きるのがケダモノ』であろうと。
 ならば人間とは、本能よりも理性が勝る存在だと――そうあるべきだということになる。
 全てを説明するには単純で乱暴過ぎる答だったが、一面を表す真実だと納得もした。


 そして。
 ヒトデナシになるのは、何と簡単なのかと笑ってしまう。
 例えばモラルや常識による束縛、理性が突きつける人間らしさ。情愛や感傷や……憎悪。
 獣として生まれたならば、腹が満ちるだけで幸せになれただろうに。
 幸せの意味を考えることすら無かっただろうに。


 その制約から解き放たれたいと考えるのも、また人間だけの矛盾であろうが。
 理性で己を抑えることなく、己の望むままに生きるモノを獣と呼ぶなら。
 私はとっくに人間ではない。