答は知らない


「あの死神とはどういう関係なのか?」

 質問されて困る問題、答えられない設問は山ほどある。
 人間、誰しも全てを明快にして生きているわけではない。
 あえて考えないようにして、先送りにしている問題はいくらでもあるし、触れられたくもない。
 回答を求められても、困ってしまうだけだから。

「あの死神とは特別に親しいのか?」

 死神に特別なものなんてあるのか。
 あの男に大切なものなんてあるのか。
 なにより――自分は、彼をどう思っているのか。

 問われると、即答できないのは事実だ。
 しかしそれは己が深く考えたことが無いからであって、彼に責任はない。
 あくまでも問題の答は、責任をもって自身で出さなくてはならない。

 何を大切にするかは人によって違うし、どのように扱うかも人によって異なる。
 他者を尊重するというのは、他者の意志を――考え方を受け入れるということだ。
 それは時に、無関心と限りなく同義に等しい。

「特別だと思われているのなら、事実にしてしまえばいいでしょう」

 唇でだけ薄っすらと微笑みのカタチにしてみせながら、ゆっくりと白い顔が近づいてくる。
 これも据え膳と言うのだろうかと、馬鹿な考えが脳裏を過ぎった。
 愚かだとわかっているにも関わらず、その頬に手を添えて引き寄せてしまったのが。
 それこそが一生の不覚――その、始まりだった。

 さて、どうしてこんなことになったのか。
 手近で間に合わせたのか、これも一種の馴れ合いになのか。
 確かにこちらにも選択の権利はあったのだ。
 容易く断れる状況ではなくとも、脅されて嫌々ことに及んだ訳ではない。
 
「あなたは、私が特別な理由もなくこんなことをすると思っているのですか?」

 不思議そうな問いかけに、何を言っていいのかわからなくなる。
 質問したいのは、こちらの方だというのに。
 彼にとっては、当然すぎて答える気にもならぬ問題なのだろうか?