樹下に屍



 桜という花には、どうしてか感情を揺さぶられる。
 何者にも属せず生きてきたつもりだが、己の感性はこの国に連なるものなのか。
 それは、目の前で満開の桜をじっと見上げ続ける少年も同じらしかった。


「何もかも汚れた街でも、桜だけは恐ろしいほど綺麗だったんです」
 むしろ能天気な少年にも、美しさを恐ろしく感じる繊細さがあったことに驚く。
「……ああきっと、その樹の下にはたくさんの死体が埋まっていたのでしょうねえ」
 数えきれない死に溢れたあの街で、喰らい尽くせぬ無数の死体を漁りながら、桜は咲き狂っている。 
 まるで汚れを知らぬような、澄ました顔をして。


 全ての美しいモノは、忌むべき汚濁の上に成り立っている。
 ならば眼前の美しいイキモノも、さぞかし汚らわしいモノを貪りながら育まれて来たのだろうと、そう思った。