『神と悪魔』


 悪魔は人に取引を持ちかけることがある。
 契約を交わした瞬間から、人は転落へのカウントダウンを始める。
 それは時に、神から人間に与えられた試練だ。神は愚かしい人の子の成長のために、幸せだけでなく不運を配って歩く。
 そう聞いたとき、神のあまりの傲慢さに吐き気がした。
 好き勝手に運命を操れるモノなど、盤上の駒と何の違いがあるだろう。目をかけて、守ってもらうなど冗談ではない。神に愛される以上の不幸はないらしい。
 あまりにも早く天に召された命への餞に、この子は神に愛されていたのだと呟かれた言葉。それを聞いたとき、神とは唾棄すべき存在となった。もっとも祈りの言葉など、とっくに忘れ果てていたけれど。
 そして今、自分は死神と呼ばれている。
 いつのまにか、己が呪わしき存在と同列に序されている皮肉は笑わずにいられない。
 それも相応しい末路だろう。確かにあの時から自分は、人の子らが呪うべき闇に生きるモノとなったのだから。

 けれどあの閃光のごとき神の子は、光の中から真っ直ぐに自分を見つめ、手を差し伸べてくる。

 神は、私に取引を持ちかけているのだろうか。
 それが破滅へ向かう道だとわかっている。
 なのにどうして、私はあの手を振り解けないのだろう。

 ふと気付く。
 神の不実に憤る自分は、神の存在を信じていることになる。