彼岸花


天上花、死人花、曼珠沙華。
様々に呼ばれる赤い花。
それは彼岸に……あの世に咲く花だ。
その花には毒があり、手折ると柔らかな皮膚をただれさす。

闇に咲くに相応しいこの花を見ると、赤屍を思い出す。
美しいけど触れられない花。
いっそ棘があれば触れる者も減るだろうに、手折るに容易くさえ見える。
毒を含んで人を誘い、害をもたらして嘲笑う。

「……けど、飢饉の時にはあの根を喰って生き延びたんだってさ」

花開く姿を見ただけでは、一目見るだけではわからぬ所で、あの花は人を救うのだと。
そう聞いたとき、余計に哀しくなったのは。
彼もまた、かつては人知れず人を救うこともあったのかと、そう思ったからだ。