特別



 「あんたって、妙に天野銀次のこと気にしてるわよね」
 「……あまりに甘いことをおっしゃるので、つい踏みにじりたくなるんですよ」
 クスと笑った男の表情は、まるでいつもと変わらない。それがかえって違和感を感じさせる。
 男は常に楽しそうに笑っていて、感情が揺らぐことがない。張り付いた仮面のような笑みは、完璧なポーカーフェイスを保っている。
 しかし銀次を評した言葉には、明らかに刺があった。


 彼の少年に対する態度に、他と違いがあるのは確かだ。
 もっとも彼の特別扱いとは、特に念を入れて丁寧に切り刻むという意味なのかもしれない。自分ならば、そんな特別は遠慮したい。
 それでも、何かに執着すること自体が珍しい男に『特別』に想われるのは、誇らしいものだろうか。

 かの人の眼差しは、興味の沸かぬ相手を個体認識しているかすら怪しい。
 あの瞳に唯一のものとして見つめられたら、どんな心地がするだろう。
 それはひょっとすると、視点を逆にした時にも言える言葉だ。
 雷帝と畏れられ、崇められて多くの信奉者をもつ少年。
 彼に『ただひとり』と見つめられるのは、嬉しいものなのだろうか。


 ――例えば死神であってさえ。