それは日常の切れはし。
それは幻想のかけら。

願わくば、せめて夢の中では。
彼らの願いが叶いますよう。





台詞お題

10. 「嬉しい。本当に来てくれたんだ」 赤屍、卑弥呼
new 18. 「遠慮させていただきます。私だって自分が可愛い」 波児、赤屍、銀次
new 25. 「靴を脱げ、靴を!」 馬車、赤屍
new 31. 「さあ、行こうかお姫様」 鏡、卑弥呼
32. 「さよならマイジーザス」 マクベス、銀次
new 33.「知ってるよそんな事」 花月、銀次
34.「死なないで、ここにいて」 銀次、赤屍
35. 「すぐにでも伺いますよ」 赤屍、銀次
new 46. 「疲れてるんじゃないのか?」 波児、夏実、銀次
50. 「遠いところがいい。誰も知らない遠くへ」赤屍
57. 「猫派なんだ、私」 馬車、赤屍
71. 「ま、いっか。私には関係ないし」 卑弥呼、赤屍
72. 「全くもって不本意です」 赤屍、銀次
76. 「無理矢理、この辺で諦めときなよ」 馬車、赤屍
new 79. 「もう、知らない!」 卑弥呼、赤屍
new 93.「冷静になってみよう」 銀次、赤屍












10.「嬉しい。本当に来てくれたんだ」


 本当に来たのかと、来てしまったのかと。
 小柄な少女を確認して微笑んだ。少し苦い笑顔で。
 呼び出したのは自分自身だ。しかし彼女が来なければ良いと、何処かで思っていたのかもしれない。

 彼女が好まぬ種類の店で、彼女が好まぬ未来のために。
 少女が応じなければ、何か変わっていっただろうか。
 きっと来ると、わかっていたが。


 親しいと言えるほど、互いに深い付き合いではない。そのつもりでいたのに。
 けれど彼女が現れたのは、自分を信じているからだ。
 理由も無くはめられるはずがない、理由も無く害されるはずはない――狙われるような、理由は無い。

 定められた運命の輪がくるくると回りだす。
 もはや留めることは出来ない。
 鏡に映る姿のように、今ある本当は逆様になる。


赤屍さんと卑弥呼ちゃん







18.「遠慮させていただきます。私だって自分が可愛い」


 泣きそうな目でこちらを見ている銀次の視線に、波児は気付かぬふりをする。
 死神につかまった少年は哀れだと思うが、ちらりと見た男は露骨にこちらを威嚇していた。
 ああ心配しなくたって、野暮な口出しなんてしやしないよ。
 こっちだって、我が身が可愛い。年甲斐もなくあんたと戦いたくなんてない。


「……いい天気だなあ」


 外は、あまりに鮮やかな青い空。
 真っ赤な血の色とは、好対照な清々しさである。

 心だけでなく、記憶も洗われてくれぬものかと。
 叫び声をBGMに、虚ろに空を見つめた。


ホンキートンクにて









25.「靴を脱げ、靴を!」


「おや、おかえりなさい馬車」
「…………おう」

 今更といえば今更なのだが、ここは自分の家である。
 なんでナチュラルに赤屍に迎えられているのだろうか。
 堂々と居間でソファに寝そべっているイキモノに、合鍵を渡したりした覚えは無いのだが。

「…………せめて、血はぬぐえ」
「ああ、済みません」

 次から気をつけますと、平然と応える男。
 最初から考えると進歩しているのかもしれない。
 家に上がりこんだはいいが、上着も帽子も靴すら言われるまで身につけたままだった頃よりは。
 まずは靴を脱げと、玄関からひっきりなしに世話を焼いたものだ。

(アレがよくなかったのか?)
(あの時、受け入れてしまったのが?)

 もはや言っても仕方ないこと。
 故に男は苦笑を浮かべて死神を受け入れる。


馬車さんちの日常






31.「さあ、行こうかお姫様」


 促せば彼女は、凍った眼差しのままでついてくる。
 これこそが彼女の、あるべき姿なのだ。
 時が至れば、より美しく羽化することだろう。


 こうなると知って、観察を続けてきたのだけど。
 いつだって生気に満ちて輝いていた瞳が見られないのは、少しだけ残念だった。


鏡さんと卑弥呼ちゃん























32.「さよならマイジーザス」


 無限城は、神に支配されている。
 そう気付いたのは随分と昔だったけど、構いはしなかった。

 自分の神は他にいたから。
 神の子と呼ばれる救世の王が、自分を導いてくれるから。

 無限城の神ですら、きっと彼には敵わない。

 だけど、彼は去ってしまった。
 電子の城の改変者は、自分達を見捨てたのだ。
 残された者は――それでも生きていく為に、足掻くしかない。

 アーカイバの秘儀を紐解き、類い稀なるレンズを手に、少年は呟く。
 黒き神へと、最期に必要な品を依頼しながら。

「――さよなら、銀次さん」

 神は、何も応えてくれない。


マクベスから銀次へ






33.「知ってるよそんな事」


「あの男は残忍で冷酷で極悪非道な殺人鬼なんですよ?」
「そんなこと、知ってるよ」
 真摯な眼差しで元主君に訴える美麗な青年に、神の子供はきょとんと首を傾げる。

 ああ確かに。
 いかにお人好しでのんきで天然な彼でも。
 あの死神が目の前で披露した行為を忘れてはいないだろう。

「――では何故、あなたは彼に近付くんですか?」

 疑問はその点に集約されるのだが、問題も其処で起きる。
 『だから』近付くなという当然の理屈が、なぜか通用しないから。
 
 神の子とユダなんて、出来すぎている。
 いずれ至る結末まで同じだと決まっていても、それでも少年は同じ言葉を返してくるだろう。


 知ってるよ、そんなこと。
 それでもいいんだよ、と。


花月ちゃんから銀次へ






34.「死なないで、ここにいて」


 倒れた死神に向かって、少年は必死に呼びかけていた。
 彼らしいと言えばそれまでだが、呆れるしかない。

 起き上がった死神に、やはり少年は怯える。
 命あることを喜びながらも、それでも怯えはする。

 彼はわかっていない。
 自分がつきまとわれる原因は、常に自分にある。

 彼が自分から、死神に「ここにいてくれ」と訴えているのだ。



赤屍さんと銀ちゃんを考察













35.「すぐにでも伺いますよ」


 とりあえず銀次は焦っていた。
 それでつい、携帯電話に出てしまったのだ。相手が誰だか表示されていたのに。

「……あの、赤屍さん?」
「――その声は銀次くんですか。どうしてあなたが卑弥呼さんの携帯に出るんです?」

 銀次と卑弥呼がやりあっていた以上、答はひとつしか無いだろうが。
 死神は懇切丁寧に少年に疑問を投げかける。いっそ、怒ってくれた方が気楽なのに。

「あのですね、卑弥呼ちゃんが気絶しちゃったので、回収に来てもらえないでしょうか……その、荷物は俺が頂いちゃったんですが」
「おやおや。それではすぐにでも伺いますよ」
「いえ! ごゆっくりどうぞ。俺はすぐ退避しますし。ここ、他に誰も来ないだろうから安全だし!!」
「落ち着いてください銀次くん。あなたから荷物を取り返す関係上、すぐに伺うのは当然でしょう?」
「う……ううう。やっぱりそうなりますか……?」
「ええ、勿論。あなたとやりあえるなんて楽しみですよ♪」

 しくしくと、滝の如く涙を流しながら。
 それでも卑弥呼を路上にほっぽっとく訳にはいかないので、銀次は己の所在地を伝える。
 この善行が、自身の死刑執行への第一歩だとは思いつつも。
 赤屍が来る前に立ち去ろうと心に誓いつつも――ひとつだけ、確認せずにはいられない。

「…………あのですね、赤屍さん。あなたと戦ってたはずの蛮ちゃんは、どうしたのでしょう?」

 先程から何故か、相棒は電話に出てくれない。
 約束したはずの場所に、現れる気配も無い。

「――すぐにでも、そちらに伺いますよ♪」

 朗らかな一言を残し、無情にもプッツリ電話は切られた。



さて銀次は逃げ延びられたか






46.「疲れてるんじゃないのか?」


 気のせいかもしれないけど、最近誰かに見られてる気がする。
 不意に殺気を向けられた気がして振り返っても、誰もいないんだけど。
 時々――黒い影が目の端をかすめる気がするんだ。


 いつものように喫茶店でツケてもらった食事を貪りつつ。
 人心地ついた少年は、眉間に皺を寄せる。
 さすがに、ちょっと気持ち悪いのだ。というか、怖い。 

「ストーカーだったりして?」
「だって、俺は男だし。つけまわしたら変態だよ」
「最近はヘンなヒトが多いから、わからないですよ〜?」

 ほえほえと笑う少女の言葉はシャレにならない。
 会話にあえて混じらずにいた店主は、遠い目をして乾いた笑みを浮かべる。 

 少年の背後にまとわりつく黒い影。
 何となく、何なのか(誰なのか)わかる気もしたが。

「…………疲れてるんじゃないか?」

 予想される答を、口にしようとは思わなかった。


 ――あまりに、哀れだったので。


ホンキートンクは今日も平和?






50.「遠いところがいい。誰も知らない遠くへ」


 マイナス思考とわかっていても、つい考えてしまうことがある。
 何もかもを振り払い、どこかへ去ってはいけないだろうか。
 
 別に何も要らないのだ。欲しいものなどひとつも無い。
 楽しさも喜びも憎しみも怒りも仲間も金も名誉も愛も――自分も、必要ない。
 全てを捨てて、誰も知らない遠くへと消えてしまいたい。
 何も知らなかった頃へと、還ってしまいたい。


 ああだけど。
 誰も知らない遠くへ行っても、其処にいる誰かが私を知るだろう。
 いっそ世界のすべてが失われてしまえばいいのに。


死神の独白











57.「猫派なんだ、私」


 男の一人暮らしで、しかも帰りは不規則ときては、ペットなんて飼っていられない。
 特に犬は駄目だ。毎日散歩になんて行けない。餌だって水だって世話できない。
 忠実で従順な人間の友であろうと、孤独に繋がれていてはたまらないだろう。

 しかし仕事で疲れて帰って来た家に、何かイキモノが居るというのは悪くない。
 手間がかかり、余計に気疲れしようとも、妙になごむものがある。
 そうは言っても世間では、居るものによると呆れるだろうが。

 こまめに面倒などみていられないから、気まぐれに立ち寄る野良で丁度いい。
 現れたときにだけ、構ってやるくらいしか出来ないから。

 気まぐれで、我が侭で、好き放題に生活をかき乱す。
 それでも偶の仕草が妙に可愛らしくも見えてしまって、本気で怒りを感じない。
 並び立てるとまるっきり猫の特徴だ。あまりに物騒な爪を持っているけれど。

 そして今日も、家には灯りが点いている。
 すっかりと慣れてしまった自分に自嘲しながらも、心は躍る。



馬車さんおうちに帰る







71.「ま、いっか。私には関係ないし」


 危ない男、怖い男、殺しにしか興味ない男。
 何を考えているのか、いつだってサッパリわからなかった。

 切ない瞳、形だけの微笑、遠くを見つめる眼差し。
 過去の重みを垣間見せても、いつもと変わらぬ顔をしていた。

「ま、いいか。あたしには関係ない」

 あっさり思い切れるのは、害が無いからだ。
 仕事を途中放棄されるのは困るが、味方でいれば襲っては来ない。
 やりあうのだけは御免だった。

 出会ったときから物騒だった男は、近頃ますます恐ろしげである。
 最初の日から楽しげに笑っていた男は、今でも微笑を絶やさない。

 それでも確かに、変わっていくものはあるけれど。
 ふと振り返ったとき、あの男の視線が和らいでいるのも知っているけれど。

「……ま、いっか。あたしには関係ないもの」

 そういいながらも彼女は、彼の呼ぶ声に応える。
 たとえば用件も言わぬ深夜の呼び出しに、応じてみせる。

 馴れ合う己の心を知らず。
 信じている己の無意識を覚えぬままに。 


 そんな彼女は、自分を見つめる視線の意味を知らない。



魔女と死神はこっそりなかよし






72.「全くもって不本意です」


 その日、依頼の結果として死神はひとりの子供を救った。
 少年は満面の笑みで、いつもは恐れる死神に礼を言う。

「赤屍さんて、優しいところもあるんだね!」

 恐れ気もない言葉には、毒気を抜かれるというより脱力してしまう。
 ただの成り行きに過ぎないのに、そこまで善意に解釈できるとは呆れ果てる。

「俺、すっごく嬉しかったです!」

 全くもって不本意だ。
 子供が助かったのはともかくとして。


 あの少年を喜ばすために、依頼を遂行した訳ではない。


不本意な死神







76.「無理無理、この辺で諦めときなよ」


 道無き道をかっとばすのは趣味でさえあるが。
 人生の道はなるべく、安全に慎重に選びたいものだ。

 しかしどこかで進路を間違えたのは、もはや言うまでもない。


 自室へ到るマンションの廊下を歩きながら、嫌な予感がしていた。
 ぽつぽつと落ちた黒い染みが、アレではないかと疑っていた。
 目立たぬながらも、延々と続くソレ。

 部屋に入れば案の定、廊下を染みが連なっている。
 玄関から浴室への道筋を教える、黒くて赤い、命の色。


 苦情を言うべく口を開きかけ。


 ぞうきんがけをする赤屍を見るより、血の雫を見つける方が心臓に良いと諦める。




馬車さんの非日常的日常








79.「もう、知らない!」


 血に狂った男は、呼んでも戻って来ない。
 仕事中だというのに――だからこそか、襲い来る敵を皆殺しにするつもりか。
 決して死を愛好してはいない少女は、応えない同僚に癇癪を起こすことにする。

「もう、知らないから!」

 一言、捨て台詞(?)を吐いて背を向ける。
 荷物を手に取り『運び』始めたところで、妙に辺りがしんとしているのに気付く。
 振り返ればいつの間にか、動くものは彼女と彼だけになっていた。
 すっきりと満足した顔で歩み寄ってくる男は、ひとの話を聞いてもいなかったのだろう。
 ただタイミングよく殺し終えただけで。
 少女の呼びかけに手を止めた訳ではなくて。

「……もう、知らない」

 いくら呼んでも、応えてくれないのなら。
 どれだけ一緒にいても、意味が無い。


死神に悪意はなく








93.「冷静になってみよう」


 自分は彼の何処が気になるのだろう。
 露骨にいうなら、何処が好きなのだろうか。

 欠点は幾らでも思いつけるのに、美点が中々思い出せない。
 というよりも、長所があるんでしょうか?

「……冷静になってみよう」

 さて、何が自分の気を惹いたのだったか。
 落ち着いて思い出してみれば、好きな部分は色々あるのだ。

 低く甘く響くあの声とか。
 非情にみえて時折やわらぐ眼差しとか。
 冷たいのに優しく動く指先とか。
 顔とか仕草とかその他、いろいろと。存在そのものが。
 すべてが。

 あばたもえくぼ、蓼食う虫も好き好きと、酷い言葉が浮かぶ。
 けど、それすらもお互い様なのかもしれない。

 冷静なままじゃ、恋なんてできない。


冷静になれない神の子供

 お題配布先サイトさま