このまま放っておけば彼は死ぬかもしれない。


 無限の迷宮


 無粋な輩を始末した後、とりあえず助けたモノを見下ろしながら、どうすべきか考える。酷く無感動にではあっても、そんな思考自体がらしくなかった。
 無限城のまだ入口近く。塔には劣ろうともさすがに物騒なロウアータウンで、かつては治めた者達によって、雷の王は倒された。
 誰もが毒ガスから逃れるため、己の身を守るために動く中で、保身を忘れた愚かな子供だけが地に伏してしまう。
 それは例えるなら社会の縮図。
 優しさは枷にしかならず、ひたむきで純粋な者から失われてしまう。善良なる者とは、早世した者への讃辞なのだ。
 しばらくは誰かが探しに来るだろうかと、赤屍はその場に留まっていた。誰か、相棒をかつての主人を仲間を案じて戻って来る誰かはいないだろうかと。多分、振り返る者はいないと感じながらも、しばらくはその場で待ち続けていた。

 ――彼らは銀次の死を望んでいるわけではない。

 少年を、彼が秘めた強さを信じているからこそ、誰も戻っては来ないのだ。それは互いに他の仲間に対してもいえること。わかってはいても、当の本人が気にしないと思いながらも、赤屍は憂鬱に嘆息する。
 銀次の強さを知っている。この毒でさえも、昇華してしまうチカラを知っている。それでも放置して進む気になれないのは、他の面子ほどに彼を信じていないからか。彼を信じられないからか――彼を、案じているからなのか。
 らしくもないと理解しながら、死神はぐったりとした身体を抱え上げる。案内人にはなるだろうから、無駄な行為ではないはず。いずれ再び戦うためだと呟きつつも、それすらも自身への言い訳に思えて嫌になる。どうでもいいつもりでいて、自分は子供を心配している。私は彼に死んで欲しくないのだ。
 考えるほどに苛つきさえ覚え、だけど彼を打ち捨てて行く気にもなれず。
 己の不条理さに怒りさえ感じながらも、そんな不必要な感情を思い出させてくれた相手を丁寧に抱きかかえたままで、城の奥へと進んで行く。
 血の臭いだけが漂う地で、ただ一振りの剣のごとく死を生み出す者で在りたいと願っているのに、今の自分には、人間らしい弱くて脆い感情が生み出されつつある。そんなことは、望んでいないのに。
 無限の謎を隠して聳える城は、光をまとう少年のための揺りかごだ。しかし暗い闇を孕みながら混沌として奥深い城はまるで、死神にとっては迷宮のようだった。