<論文> 「バイオ骨壷」による都市再生計画
1.はじめに
日本が世界一の少子高齢社会になるにつれ、昭和23年に制定され既に50年以上経過した『墓埋法』
は、現代社会にそぐわなくなってきており、見直しの時期が到来している。
お墓の問題を考える時、お墓には供養・法要という「宗教の問題」と、墓地の確保という「行政の問題」の2面性が潜む。行政がこの2面性に対処するとき、必ず「政教分離」の原則に立つ。
しかし、墓地の提供は明らかに行政の「責務」であり、都市住民の「福祉」の問題でもあるのである。
本論文は、行政がその責務を果たす上に於いて、墓地問題を「環境」と「福祉」の両面から捉え、「都市再生計画」を推進することを期待して論述するものである。
2.公営墓地の環境墓地政策の必要性
言うまでもなく、墓地の認可は行政の仕事であり、その許認可及び運営・管理権は中央行政から地方行政に権限委譲され、現在は、各都道府県知事の掌握下にある。
従って、民間(宗教法人、公益法人)が墓地認可を取得する場合は必ず、知事の認可が必要であり、完全に行政主導型の性格のものである。
この性格には問題ない。しかし、その指針には問題がある。
昭和21年(『墓埋法』制定の2年前)に、厚生省公衆衛生局長、内務省警保局長連名で、墓地の新設を、宗教法人及び公益法人に限って許可したことに端を発し、これら法人の「名義借り」による大手石材業者の山林伐採・墓地造成が進んだのであり、折からの高度成長期と重なって、高価な「事業墓地」は、営利事業として繁栄した。
しかし、墓地造成による自然破壊が社会問題となり、また高度成長がストップして経済情勢が厳しくなった今日、倒産・閉鎖する霊園墓地も現れ、墓地運営の基本条件である「永続性」に問題が出てきた。
墓地問題は何も日本だけの問題ではない。ヨーロッパ、アジアでも、国土に占める墓地面積の増加抑制及び環境面からの山林伐採・自然破壊防止等、墓地政策は社会問題となっており、各国は国策としてこの問題に対処している。
我国に於いても、内閣の都市再生本部、国土交通省・都市整備局等の中央行政機関は、従来の高速道路建設や箱物建造物にばかり現をぬかすのではなく、国民の「生活と福祉」に不可欠の墓地問題に、従来型の「事業墓地」の視点からではなく、「環境墓地」事業の視点で、国民感情にマッチした日本独自の環境墓地政策に本腰を入れて取り組むべきであろう。
火葬率では世界一の日本が、火葬と一対をなす墓地の問題について、環境施策としての墓地構想を打ち出すことを世界から求められていると言える。
3.公営墓地の人気倍率と都市計画
現在、墓地には、市町村運営の「公営墓地」と、宗教法人・公益法人運営の「事業墓地」があるが、市民の人気は「公営墓地」が圧倒的に高い。 東京都、大阪府をはじめ、主要都市の「公営墓地」の募集はいつも10倍〜20倍の倍率である。
これは、都心部から近い、価格が安いという理由もさることながら、墓地運営の基本条件「永続性」に於いて「公営墓地」は倒産の心配がないことによるところが大きい。
墓地は都市計画と密接な関係があり、市町村行政が策定するものであって、墓地の新設・統合は行政が決定権を持つが、市民要請を反映させて管理・運営に当たるべきものであることは勿論である。
しかし、墓地問題は行政が最も苦手とする業務であり、市民からの積極的要請がない限り、行政から進んで解決しようとする姿勢が見られないことも事実である。
一方、市民も、避けて通れない「死」の問題を直視して、死後の棲家としての墓地問題にもっと関心を寄せ、市民運動を展開すべきである。特に、市民の声を代弁するNPO法人等の民間団体は、市民の声をまとめて行政と折衝すべきであり、また行政との「協働」を掲げるNPO法人は、「まちづくり」の一環という面からも、「構造特区」墓地構想の面からも、行政から「業務委託」を受けて墓地の管理・運営にタッチすべきであろう。
なお、市有地の有効運営という視点に立てば、墓地問題は、行政が最も指導力を発揮しやすい分野であることを再認識し、行政指導者は、民間活力をもっと取り入れ、都市計画に反映すべきであろう。
4.環境型公営墓地の財源収入と採算性
永びく経済不況により、市町村財政も企業の法人税減、個人の市町村民税減により財源収入は低下し、赤字財政都市に転落する都市が続出する現状である。
いくら経済が低成長期にあっても、市民生活必需品としての墓地需要は低下しない。むしろ、死亡人口が増加
している現在、墓地需要は増加傾向にある。
前述のとおり、市民に人気のあるのは「民営事業墓地」ではなく「公営墓地」であるのだから、「永続性」に圧倒的有利性を持つ「公営墓地」の運営・管理を市町村歳入の財源として見直すべきである。
ほとんどの「公営墓地」は市有地である。市有地は」貸与してはじめて市の財源となる。
地方行政は財源策として、市有地を造成して企業誘致や建物建造貸与の第3セクター運営にのみ熱心であるが、経済不況による入居者の見込み減により、運営が厳しくなっているところが続出している。
目先を替えて、貸与地である「公営墓地」を行政再建政策の面からも見直し、市民に対しても「環境と福祉」の面で還元する墓地政策を策定して、それを実行する地方自治体が現れても然るべきである。
民間研究機関には、墓地の有効利用・低価格化を実現した「環境型葬墓」(樹木葬墓、地下立体埋蔵型合葬墓)等、
今までとは違う有効な「葬墓システム」を開発したところも出現しており、これを利用すれば、従来の「事業墓地」価格の1/10の30万円〜50万円の価格帯の「環境型公営墓地」の構築・運営が可能なのである。
なおこのことは、高価でも設計自由な「民営事業墓地」の存在や、小規模ながら地域密着型「寺院墓地」の存在を否定するものではない。「公営墓地」は自ずから、墓地貸与条件にいくつかの制限事項が付与されるため、高価でも制約条件のつかない「民営事業墓地」を選ぶ市民や、住職常駐の「寺院墓地」を希望する市民が居て当然である。
ただ、墓地行政の指針を出すべき行政の責任者は、厳しい経済環境に置かれている一般企業と同じ経済目線で、「公営墓地」を環境事業として見直して、行政の墓地再考による「都市再生計画」を実施することにより、行政の歳入増加が計れると提案している次第である。
5、都市再生計画に対する「バイオ骨壷」の寄与
行政が環境型公営墓地を構築・運営する上で苦慮するのは、
@ 墓地の有効利用(墓地面積の増加抑制)
A 有期限化(無縁墓対策、墓地の回転利用)
B 脱墓石化(無縁墓対策、再利用不可の墓石の処理) の3点である。
これら3点の問題点を一挙に解決する手法として、「土に還るバイオ骨壷」による「環境型葬墓システム」がある。
「環境型葬墓システム」とは、遺骨を「バイオ骨壷」のまま土中埋蔵し、遺骨を分解促進剤で化学分解させながら、骨壷を土中微生物で生分解させ、2〜3年で完全に遺骨と骨壷を同時に土に還すシステムである。
このシステムによる上記の問題点解決策を、各項毎に詳述する。
@ 墓地の有効利用に対して:
従来の墓地は、墓地を平面利用するものであるが、これを「地下立体埋蔵型」にすることにより、墓地面積の拡張を抑制できる。
これは、地下に「安置式納骨堂」を作るものではない。地下に遺骨を「バイオ骨壷」のまま立体的に埋蔵し、土を埋め戻して埋設するもので、土中で遺骨と骨壷を同時に「土に還す」方式である。
従って、従来のようなコンクリート製の地下カロートでは土に還らない。あくまで土のままのカロートであり、この方が費用も安く自然である。
A 有期限化に対して:
火葬場で850℃〜1000℃で焼かれる焼骨の主成分は、水に不溶性のリン酸カルシュームである。
従って、焼骨のまま土中に埋蔵しても20〜30年経っても分解せず土中に残る。これでは遺骨を埋蔵しただけで、本当に土に還ったとは言い難い。そこで、骨壷を土中に埋設する時に、焼骨に分解促進剤を添える。
水に不溶解のリン酸カルシュームもクエン酸には溶解する。
クエン酸は、ミカン、レモン、キンカン等の柑橘類に多く含まれる酸であるため、焼骨に柑橘類を輪切りにして添え、焼骨の分解促進を図る(これは、当社の特許申請内容でもある)。
一方、小麦粉グルテンからできた「バイオ骨壷」は、室内では分解しないが、一旦土中埋設されると、土中微生物により生分解される。
この同時分解性により、墓地の回転利用が可能になり、「墓地の有期限化」に貢献する。
B 脱墓石化に対して:
「バイオ骨壷」に焼骨分解促進剤を添えて土中埋設した土壌は、埋設以前の土壌に比べて、植物成育に適した土壌に改良(バイオレメディエーション効果)される。これは、グルテン蛋白質からなる「バイオ骨壷」が約12%の窒素を含むこと及び、リン酸カルシューム成分の焼骨が分解促進剤により溶液化されることにより、植物に吸収されやすくなるためである。
この植物成長効果は、動物の焼骨を用いた実験により、既に確認されているところである。
この土壌改良効果を利用して、焼骨埋蔵地の上に植物を植樹することにより植物は成長し、「樹木葬墓」が成立する。
これまで、墓石一辺倒であったお墓の形態を、墓石に代わる樹木を墓標とする新しい形態の環境型葬墓形式に変えることにより、墓地の緑化・自然修復も可能となって、墓地の脱墓石化に貢献する。
勿論、「地下立体埋蔵型葬墓」と「樹木葬墓」を併用することにより、更に「墓地の有効利用」は進む。
このように、「バイオ骨壷」を利用した「地下立体埋蔵型葬墓」や「樹木葬墓」の「環境型葬墓システム」を「公営墓地」に適用することにより、歳入増加を実現させる「都市再生計画」を構築することができる。
平成15年3月3日 (有)バイオアート・環境葬墓研究所
三木 勝也