負けたくない
不安で仕方なかった。
一度落ちると、もう二度と無理なんじゃないかと思ってしまう。
自分の恋人はレギュラーなのに、俺がレギュラー落ちしてていいんだろうか。
こんな俺が、コーチをやってていいんだろうか。
データを過信し過ぎたために、負けてしまった。
そんなデータを、頼ってくれた海堂。
どんなに心強かったか……。
負けた日から、海堂にさえも気づかれないように練習に励んだ。
確かに、誰かと試合しながらの方が実力はつくが。
やはり、俺のプライドが邪魔をしてしまう。
極力、誰にも悟られないようにしてきた。
そうしてたが、手塚は知っていたらしい。
さすが、部長なだけはあるなと感心した。
後残るは手塚との試合。
実を言うと、手塚に勝つ自信はなかったりする。
やはり、実力の差はあるし。
そんな俺に、勇気をくれたのはやっぱり海堂だった。
「勝てないって思うくらいなら、試合すんな!!」
「だってさ……」
珍しく弱気な乾に、腹を立てる海堂。
「俺だって、先輩に一度も勝てなくて悔しかったんすよ?」
真剣に話す海堂の目をじっと見る。
「でも、俺一度だって勝てないって思ったことはないっす。
そう思った時点で、俺の負けだから……」
言葉を詰まらせる。
「俺は、勝つって信じて試合に臨んでます。だから、先輩も信じて」
海堂が必死に乾を説得する。
でも、心の底ではまだ怖くて。
「自分を、信じきれないんだ」
「じゃ、いいです」
静かに、海堂が言う。
自分に呆れられたかもしれない。
こんな、情けない自分を知られたくなかった。
「先輩が自分を信じれないんなら、俺が信じてます。
俺が信じてるんすから、大丈夫です。
それとも、俺が信じれないとか?」
海堂は、なんて強いんだろう……。
「ありがとう」
自分を信じることは、まだ怖いけど。
海堂なら、信じれる。
これから、手塚との試合――――――…………
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