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まだかもしれない |
最近、胸の奥が痛む
なんか風穴が開いている様な感じがする
「海堂、無茶な練習だけはさけろよ?」
手塚は、海堂に声を掛けた。
「え・・・?」
「どこか苦しそうに見える。今のお前の表情は。」
手塚の眼は、まるで海堂の心の中を見透かしているような印象を与える。
胸の風穴を塞ぎたくて、俺は何かを求めるかのようにテニスに打ち込む
ミタサレナイ
ミタサレナイ
ミタサレナイ
ミタサレナイ
何かが俺に足りなくて
何かが欲しくてたまらない
こんな痛みは邪魔だ
いらない
消去するべきだとわかっている
なのに 俺は どうすることもできない
世界がグラリと傾いて―――
ああ、そっか俺の頭がグラリと傾いているのか・・・
「海堂?!大丈夫か?!」
手塚の声。海堂はその声に呼び戻された。手塚は海堂のすぐ目の前にいる。
手塚の声が愛しくて
手塚の手が気持ちよくて
「無理はするなと、あれほど言っただろ?」
「す・・・すみません。部長。」
海堂はまた目蓋を閉じる。
手塚はそっと海堂の口唇を自分のそれで塞いだ。
海堂はこの時
まだこの胸の風穴の意味を
この痛みの意味を
知らない。
今、手塚は 海堂のことを見守ることしかできない。
『恋』
その言葉の意味を知るには、海堂はまだ早いのかもしれない。
「END」
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