trap


「俺、先輩の事好きなんスけど」
 練習後のテニスコート
 みんな部室へ戻った後
 僕だけ2年後輩の部員越前に呼びとめられ残った
 そして、その時の突然の告白・・・
「え・・・?」
 僕はその言葉を理解しきれずもう一度聞き返す
「だから、俺、不二先輩が好きなんです」
 少しつりあがった目で真っ直ぐに僕を見ながら繰り返す
 好き・・・?
 君が僕を
 考えた事もない事だった
 彼がそう想っていたなんて
 僕は返答に困った
 僕も彼のことは嫌いじゃない
 むしろ、好きか嫌いか聞かれたら好きを取るだろう
 しかし、その好きと彼の好きが同じかは分からない
 だから、どう答えればいいのか分からないのだ
「困った顔になってますよ」
 越前はクスリと笑って言った
「珍しいッスね。自分の気持ちを表に出すなんて・・・」
 さすがにこの状況では僕もポーカーフェイスを保ち切れなかったようだ
「分かっていましたよ。僕が今こう言ったところで答えを出さないだろうって」
「越前くん」
「だから、おまじないを掛けていいっすか?」
「おまじない?」
「あなたが俺を好きになるおまじない・・・」
 僕が、君を好きになるおまじない?
 一体彼は何をしようとしているのだろうか
「ちょっと耳貸してください」
 僕は彼に言われるがままに耳を近づけた
 そして、顔がちょうどいい位置に近付いたのを見計らって
 すかさず、自分の唇を僕の唇に押し付けた
 一瞬の出来事だった
「え、越前くん・・・?」
「言ったでしょ?俺を好きになるおまじないをかけるって」
 言ったけど・・・
 おまじないってこういうことだったの?
「それじゃ、効果が出てくるの楽しみにしてますよ」
 越前はそう言って、部室の方へと走って言った
 テニスコートには僕だけが取り残されていた


 告白されるのははじめてじゃない
 もう数え切れないほどあるのだ
 後輩、同級生、先輩、他校生、姉さんの友達にだって
 正直言って男からの告白だって初めてではなかった
 返事はその時にだって色々だ
 なんとも思ってない子には断ったり
 気になってる子は受け入れてみたり
 しかし、長続きはしなかった
 なんとなくで始まった恋はいつもなんとなくで終る
 恋ってこんなものかと考えてしまう
 告白されるのは慣れっこになっているはず
 なのに、今回はちょっと違った
 告白されてあんなに動揺してしまったのは初めてのことだった
 それは・・・何故?
 キスされたから?
 いや・・・キスだって何度も経験している
 ただ、自分からキスしようと思ったことはなかった
 向こうから、積極的にしてきたり
 して欲しいと言われたからしたり
 唇を合わせるという行為は難しいことではなかったから
 でも、昨日のキスの時のこの感情はなに?
 どことなく落ちつかない
 いつも、キスをしようとそれ以上のことをしようと冷静だったのに
 落ちつかなくて、越前の顔が頭から離れない
 この感情は一体・・・・・・


「不二、調子悪いのか?」
 練習中、乾が僕に声を掛ける
 今、やっている練習はいつもの基本的なスマッシュ練習
 乾の出したボールを籠の中に入れるだけ
 青学のレギュラーはこれくらいお手のもの
 ・・・な、筈なのに
 今日は10球の内に、3.4球は外している
 普段の僕なら100発100中だ
 だから、乾もこの不調が心配になったのだろう
 情けない・・・昨日のことが気になって練習にならないなんて
 なんだか練習する気にもなれなかった
「乾、ごめん。ちょっと体調が良くないみたい」
「そうか」
 乾はやっぱりという顔をした
「ちょっと休んできてもいい?」
「ああ・・・」
 さすがに乾もあれだけのミスはおかしいとかんじたのか
 素直に僕の要望を受け入れた

 僕はテニスコートを出てその辺の木陰で腰を下ろした
 部員たちの声が響いている
 僕はそれを聞きながら静かに目を閉じた
「せんぱーい」
 聞きなれた声がすぐ近くて聞こえた
 僕は思わず目を開ける
 すると、すぐ目の前に越前の顔があった
「え・・・越前くん?」
 越前の顔が至近距離に・・・
 それを感じると同時に昨日の感触がよみがえる
 そして、あまつさえ、もう一度その感触に触れたいとも思ってしまう
 昨日の君がどうしても忘れられないから・・・


    もしかして・・・
 
    惹かれてる?

    惹かれてく?

    君の全てに

    はまってる?

    はまってく?

    君の罠に

    それは恐ろしく巧妙な恋の罠・・・・・・


 君が目の前にいると感じる愛おしさ
 触れたい・・・君の唇、君の体、そして、君の全て・・・
 どうして、こんな感情が沸き上がるのか
 もし、この感情に名前をつけるとすると・・・
 これが・・・恋?
 ずっと君に、この感情を抱いていたような気がする
 でも、気付かなかった
 だって、今までは本当の恋を知らなかったから
 それを君が教えてくれたんだ
 きっとこれが僕の本物の初恋・・・
「越前くん」
「なんスか?」
 越前が僕の呼びかけに返事すると同時に
 僕は彼の唇にキスをした
「不二先輩?」
 生まれて初めて自分から進んでキスをした
「ふふふー。おまじないだよ」
 今度は僕がおまじないをかける番
「おまじないって・・・なんの?」
「君が今よりずっと僕の事好きになるおまじない」
「はぁ?」
「僕、君のおまじないにまんまとひっかかっちゃったみたいだからさ
 掛けられっぱなしってくやしいじゃない?」
「そ、それって・・・」
「君のこと好きになっちゃったみたいだよ」
「・・・・・・」
 越前は黙って僕を見つめるだけだった
 何も言葉が見つからないようだ
 そして、ようやく口を開くのと同時に彼が僕の胸へ飛び込んできた
「不二先輩!!」
 僕は、そっと彼を腕の中に閉じ込めた
「僕を夢中にさせたからにはそれなりの代償は覚悟してもらうよ」
「覚悟?」
「僕はこれからもどんどん君を好きになるからね。その覚悟」
「そんなことなら俺だってそうッスよ」
「それじゃ、勝負しようか?」
 僕は彼に提案する
「勝負って・・・テニス?負けませんよ」
 何故、こんなところで突然テニスの勝負をしなくちゃならないのか・・・
 僕はクスクスと笑いながら訂彼の言葉を訂正した
「違うよ。君と僕、どっちがお互いを好きにさせるかの勝負」
「なーんだ。そんなこと。ならなおさら負けませんよ」
 自信満々に越前が僕へそう言う
 そんな越前が可愛く見えて堪らない
 僕は越前の顔を両手でそっと包んだ
「センパ・・・」
 そのまま、僕は彼に口付けを交わす
 今までの中で一番長いキス
 3度目のキスはお互いの気持ちを確信するためのキスだった
 キスをするたびに僕は君にハマってく・・・
 どんどん君を好きになっていく
 自分から言い出した勝負なのに
 君の魅力には敵わないかもしれない
 昨日より今日の方が好きになってる
 そして、きっと明日になればもっと好きになる
 それはきっと止まらない
 だって、恋する気持ちは強くなっていくから・・・・・・

キリバンを踏んでいただきました。
リョーマに振り回される不二でv
こんな素敵な小説を書いていただけるなんて、光栄です〜♪
葵蛸絵さんのサイトとは、相互させていただいてるので、興味を持った方はリンクページから。
もっと素敵な小説が読めますv


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