□□□■■勝てない理由■■□□□


都大会前半が終了し、俺は兄貴と一緒に家に帰っていた。
今日の青学との試合――兄貴と観月さんとの試合。
兄貴は7−5で勝利した。観月さんがとった5ゲームも実は、兄貴がわざと与えたもの。
だから、実際には兄貴の圧勝だった。
だけど――

「兄貴はそれで満足なのかよ?」
「何が?」

兄貴のとぼけたような口調にいらつき、投げ捨てるように言った。

「利き腕じゃない腕でテニスをやっていることだよ!」
「僕は気にしてないよ。」
「そんなわけ―――っ!!」

兄貴の言葉に俺は怒って怒鳴った。そして、兄貴に背を向けて歩き出した。


*****


あれはまだ俺も兄貴も小学生の頃。
俺が兄貴を慕っていた頃だった。

「しゅ〜にぃ〜。早く、早く〜。」
「裕太、そんなに走ると危ないよ。」
「ヘーキだって。早く、しゅ〜にぃ〜。」

その日俺は何があったのかは覚えていないが、浮かれていた。それがいけなかった。

「裕太、危ない!!」
「え?」

道路に飛び出していた俺は重トラックがきていることに気づかず、
兄貴の言葉で振り返るとトラックはもう目の前まで迫っていた。

――よけられない!!

そう思って、目をつぶった瞬間、身体がぐらりと傾いて倒れた。
トラックにはねられたと思ったけど、痛みはそれほどなくて、おそるおそる目をあけると俺のすぐ側で兄貴が倒れていた。
しかも、兄貴の左腕――利き腕が真っ赤に染まっていた。

「周兄!!」

俺はどうしていいのかわからず、ただ兄貴を呼びかけていた。
しばらくして救急車が到着して、俺と兄貴を乗せていった。
すぐに手術をして、成功したけれど、テニスをするのは無理だと言われた。
そして、兄貴の腕は日常生活に支障がないほどには回復したけれど、今でも利き腕でテニスは出来ない。
当時から兄貴はテニスがうまかった。だからこそ、テニスが出来なくなると聞いて俺はショックを受けた。
そして、泣いて兄貴に謝った。だけど、兄貴は――

「う……ひっく、ひっく……。」
「どうしたの?裕太?」
「ひっく、しゅ…にぃ……っく、ごめっ…ん……。」
「え?」
「テニス……できなくなる…って……俺の…せいで……。」

申し訳なかったのと、涙のせいで兄貴の顔は見えなかった。
怒っていたのか、笑っていたのかわからない。だけど、兄貴は優しく言った。

「裕太のせいじゃないよ。」
「でも!!」
「あのね、裕太。裕太はあの時、僕に『助けて』なんて言わなかったでしょ。」

俺を落ちつかせようとしていたのか、兄貴は優しい口調で言った。
そして、俺は首を縦に振った。

「あれは僕が勝手にやったことなんだ。
 だから裕太が気にすることはないよ。」

兄貴は優しかった。兄貴は俺を責めることはなかったけど、
その分、俺は兄貴の優しさと、そんな兄貴をこんな目にあわせた自分が嫌になった。

――この頃だった。お互いの歯車が合わなくなったのは――

兄貴の優しさと、自分の不甲斐なさで苦しみ、
いっそ『お前のせいだ』と言われた方が気が楽になると思い、兄貴に冷たく接し始めた。

退院してリハビリをした後、兄貴は右手でテニスをし始めた。
俺の目にはそれが痛々しく思えて仕方がなかった。

――兄貴の優しさと、己の罪がそこにたしかに存在しているのだから――


*****


「―――それにね……。」

前を歩いていた俺に突然兄貴は言った。

「利き腕じゃなくてもテニスは出来るから――
 だから、誰も恨むことなんてないんだよ。」
「!!!」

その瞬間、今までの兄貴に対する負の思いの全てが取り払われたような気がした。
そして、自分に対する全ての負の思いが。

……ようやく兄貴に勝てない理由がわかった気がする。
いや、おそらくこれからも勝てないだろう。
でも、前ほど悔しくはなかった。
きっと、この男の器の大きさを知ったからだ。

だけど、だからこそ、テニスでは勝ちたい。

大好きなテニスでは――

後書きという名の謝罪文
ビバ、不二兄弟モノ!!(笑)
不二って、もともとは左利きなんじゃないかな、
と思ったことからこの小説が出来ました。
裕太が左利きだからそう思っただけなんですけどね。
あと、峰谷が、
「裕太は小さい頃不二のことを『しゅうにい』って呼んでいそう」
と言っていたのでそう呼ばせました(笑)
こんなヘボヘボでいまいち意味のわからない小説だけど、もらってね☆


私のくだらない妄想を叶えて頂きました。
学校で突然「裕太は絶対にしゅうにぃって呼ぶの!!」と叫んで。
そして、鷹月が書いてくれました。
私は学校でいつもこうやって妄想に友人を付き合わせてます。


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