実写版・ルパン三世のような大泉洋の取扱説明書

                         ――― 映画「探偵はBARにいる」を見る(2011.10.2)


まるで、大泉洋の取扱説明書のような映画だった。
大泉洋は、北海道ローカルのバラエティ番組「水曜どうでしょう」に出演するや、
場当たりな企画とロードムービー的展開に、タフなロケ芸を磨くことで人気を得て、
本業の役者で全国的に声をかけられるようになっても、いつまでもバラエティ色と北海道色がついてまわるという貴重な人材だ。

大泉洋が演ずるのは、いつも札幌ススキノのとあるバーにいるという探偵である。
バーの片隅で助手兼運転手の松田龍平と二人でオセロに興じながら、バーにかかってくる依頼の電話を待っている。
たまたま受けた簡単なはずの依頼は、いつのまにか話が大きくなり、気がつくと札幌の裏社会をめぐるやっかいな事件になってしまう。
しかし、探偵は、どんな状況にもめげることなく事件に立ち向かっていく。ああ、なんと「水曜どうでしょう」的な展開であることか。

いや、むしろ、そんなバカなことを平気でやってのけるような探偵を演ずるのは、
どんな状況にあっても、めげずにロケに立ち向かった大泉洋こそがふさわしい。
まして、利権や暴力という言葉が似つかわしい怪しいススキノの街や、
何が起こっても不思議はないような雪の大平原で大暴れするのだから、大泉洋にはおあつらえ向きの展開だ。

基本的にアクション映画なので、大泉洋の探偵は単体でもケンカに強い。
そして、助手の松田龍平はさえない風貌でありながら、さらに強い。
乗りかかった船とばかりに危ない事件に自ら飛び込んでいく探偵と、探偵が飛び込んでいくなら仕方ないなと付き合う助手という関係は、
ルパン3世と次元大介を思い出させる。(なら、探偵を惑わせるヒロインの小雪は峰不二子なのか。)

そういう点で、今、実写でルパン3世を演ずるなら大泉洋が適任かもしれないし、
また、第二弾の制作が決まった「探偵はBARにいる」シリーズを、
ルパン三世に負けないような立派な実写シリーズに育て上げるべきなのだろう。

そして、その可能性は十分にある。期待は大きい。


   実写のドタバタは楽しいが、痛快アクションは痛い

                         ――― 映画「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」を見る(2013.6.6)


アニメ「ルパン三世」を実写化したかのような娯楽アクション映画の2作目。
探偵の大泉洋は惚れっぽくて軽薄だが、あくまで格好の良いススキノの顔だ。
なぜか常に探偵とともに行動する相棒・高田の松田龍平も、相変わらずなマイペースな強さである。
今回の「峰不二子」は大阪出身のヴァリオリニスト・尾野真千子、 ゲスト都市は室蘭だ。

娯楽映画だから理屈抜きに楽しければ良い。
なかなかエンジンがかからないボロの中古車が、すんでのところで黒煙をあげながら飛び出して敵をふりきってみたり、
市電に逃れてほっとしたと思った瞬間に、次の停留所で大量の敵が乗りこんできたり、
こういう「お約束」は、ルパン三世的で楽しい。

しかし、アニメさながらに明らかに無謀な場所に平気で踏み込んだり、
圧倒的多数の敵と生身の探偵と高田が殴る蹴るを繰り返すというのは、
痛快アクションといえども、なかなか痛快には見ていられない。
実写となったルパン三世は、どうやら見るからに痛そうな物語になってしまうらしい。

前作でも小馬鹿にされていたヤクザ・波岡一喜は、今回でも似たような役回りだ。
(パンフレットの松田龍平は、銭形警部のように出てくると安心する人と言う。)
反面、ヘルメットをかぶりマスクをした謎の集団が「市民」と名乗ったり、
政治家はすべて金まみれで利権まみれだなどと一応、批判的ではあるものの、
脱原発という理想を掲げる左派政治家の良心については、最後まで美しいものとして護りきる描き方をした。
このような政治的スタンスに共感したり快哉するのは、ある年代以上に限られそうだ。

主題歌がムーンライダーズの「スカンピン」であることに狂喜乱舞する世代が、
ある年代以上であることと同様に。

とはいえ、被害者・ゴリの迫真の演技や、よく出来たススキノの風景を思うと、
相棒の高田のような気分で「仕方ないなあ」と思いつつ、 もうしばらく「探偵」に付き合ってみるかという気になるのだった。


  「寅さん」のように心待ちにしている探偵たちのお決まりの活躍

                          ――― 映画「探偵はBARにいる3」を見る(2018.1.18)


ススキノの歓楽街を舞台に、裏社会にもつながることもある面倒なゴタゴタを探偵と相棒と二人で痛快に解決するシリーズも、
「4年ぶり3回目の出場」になる。3作目ともなると、ワクワク感というよりも、探偵たちの顔を見に行くような心境だ。
かつて、寅さん映画を見続けた善男善女も似たようなものだったのかもしれない。

とはいえ、4年ぶりとなると、それなりの変化もある。
探偵の大泉洋は、中年男のうらぶれた感じが自然に出てきた。
その分、アクションシーンでは「いい年」をして頑張っている印象になるのだが、
いささか強がり気味にキザなセリフを言っても違和感がないくらいには、 人生経験を感じさせてくれるようになった。
かつてなら「色物だけじゃない」ことを必死に示さねばならなかった大泉洋も、
いまや役者としての地位を十分に確立したことで、気負いがなくなったというところもあるのだろう。

一方、相棒・高田の松田龍平はというと、すっかり立派な大人になっていて、
「やたらとケンカが強い正体不明の青年」というにはマトモになっていた。
そのせいか、今回、若い志尊淳の攻撃に一度は屈し、道場で鍛え直すシーンもあったし、
今回のラストでは、本業の研究のためにススキノを「離れる」ことにもなった。
とはいえ、「正体不明のオッサン」になっても、ポンコツの車とともになんとか探偵を助けてやってほしいところだ。

物語はいつもながらで、美しい女性にはすこぶる弱い探偵が無理に無理を重ねる。
ヒロインの北川景子は、探偵にそんな無理をさせるに足るほど十分に魅力的だったし、
自分勝手な女子大生を演じた前田敦子も思いのほか達者だ。
思わぬところで登場した鈴木砂羽も、味のある演技を見せてくれた。

そして、ここへ来て、豊富なレギュラーメンバーの中でも、
いつも探偵と微妙な緊張関係にある若頭・松重豊や新聞記者・田口トモロヲよりも、
探偵にないがしろにされてばかりいる喫茶店の女・安藤玉恵の方を、
どこか心待ちにしていたように思えたのは、なぜだったのだろう。

やっぱり、心のありようが「寅さんファン」化しているのかもしれない。



   
      映画「探偵はBARにいる」公式サイト        
      Wikipedia「探偵はBARにいる」ページ


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