中公新書編集部が自らの編集力を駆使することで示した最新の日本史事情

                                  ――― 中公新書編集部遍「日本史の論点」を読む(2018.11.13)

「中公新書編集部編」というのがポイントで、古代(倉本一宏)、中世(今谷明)、近世(大石学)、近代(清水唯一朗)、現代(宮城大蔵)と、
時代ごとに5人の著者が選ばれ、それぞれ5〜7の論点について概説されている。

立ち位置が「論点」なので、自分の意見を主張するというよりも、 最新の議論の流れを紹介する方に力点が置かれている。
このあたりは検証のしようもないし、著者による温度差もあるのだろうが、
「私はこう考えるが、こちらの説の方が近年有力である」という書きぶりもあった。

これまでも「大化改新はなかった」「鎌倉幕府はいい国作ろうじゃない」というような比較的軽めの情報を集めた新書も読んだが、
そうした入門コースの本と比べると、時代ごとの専門家がしっかり語ってくれるだけに、なかなかに読み応えのある本に仕上がっていた。

ちなみに、「大化改新」については、大化という年号が実在しないのを前提に、
新羅型の有力王族中心で権臣が背後で権力を持つ政権を志向した中大兄と鎌足が、
高句麗型の大臣への権力集中を目指した蘇我入鹿を倒すクーデターがあり、
「日本書紀」に記載された「改新詔」の存在は疑わしいが、その基となる詔はあり一定の改革が行われたのは確実だが、
その後の施策も含めて「改新」として伝えられてきた、 とされる。

鎌倉幕府の成立については、1180年から1192年までの6説が並び、
早い成立を主張するのは鎌倉幕府を東国の自立した国家とみる立場(東国国家論)であり、
中世を公家・武家・寺家が三者鼎立する国家であるとする立場(権門体制論)では鎌倉幕府の成立を1184年以降である(1185年が有力)としている。

近代以降については、著者が歴史学者から政治学者に変わり、語り口も変化している。
こうした著者選択の妙も、「中公新書編集部編」と宣言しているゆえんだろう。
巻末には、各時代に20冊ずつの「日本史をつかむための百冊」が紹介されている。
各書籍ごとに2行程度の紹介も付けられており、 深く学びたい向きはこちらへ、というところだ。

きっと史学科の1年生が読めば、ものすごく参考になりそうな気がする。



     中央公論新社サイト内「日本史の論点」紹介ページ

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