季節や天候に合わせて道具や軸や建具を変えるという豊かさ

                             ――― 映画「日日是好日」を見る(2018.10.24)


黒木華が主演、樹木希林の遺作と聞くと、さすがに見なければ という気になった。
原作は、エッセイスト・森下典子による同タイトルの自伝的エッセイである。

学生の典子(黒木華)は、従姉妹の美智子(多部未華 子)との会話の行きがかりで、
実はお茶の先生だという近所の武田さん(樹木希林)に二人してお茶を習うことになる。
袱紗の折り方から始まる茶道の稽古は、興味津々というよりも戸惑うことの方が多い。
理由のよくわからない(説明しても仕方がない)約束事も多いため、なおさらだ。

というわけで、映画で描かれるのは、黒木華と多部未華 子(は途中で退場する)らが、
お茶をたてたり、飲んだり、樹木希林がそれを指導したりという場面ばかりだ。
24年という歳月の中で、就職するとかしないとか、結婚するとかしないとか、父との関係とか、大きな物語もなくはないのだが、
そんな典子の半生の傍らには、ずっと武田先生のもとでお茶を飲むという習慣がある。

茶道の作法については、門外漢の身にはコメントのしよ うがない。
しかし、一年を二十四に分かつ節気ごとに添えられる菓子が変わったり、
建具も夏には風が通る簀戸になり、冬には雪見障子を開けて陽の光を入れ、
床の間の軸は季節ばかりか、その日の天候にあわせて最適なものが選ばれていたり、
そんな茶室のしつらえを見ているだけで、十分に贅沢な気分になってくる。
なんと、干支の茶碗は十二年に一度の正月にしか使わないらしい。

タイトルの「日日是好日」は、武田先生の茶室に掛けら れている額で、
「どんな一日も、ありのままに受け止めれば、かけがえのない良い日である」の意、
茶を極めた(役の)樹木希林の心境を表しているのだろう。

黒木華は、学生時代から40代までを服装や髪形を変え ながら堂々と演じ、
樹木希林はずっとお婆さんだったが、後になるほど小さく丸くなっていった。
多部未華子は、黒木華と対照的な華やかでさっぱりした現代女性を演じてくれた。

余談だが、初心者が物を落としたり、ひっくり返ったり した場面で、前の方の席のオバサマたちから悲鳴に近い笑い声があがった。
きっと「茶道あるある」で、茶道経験者として似たような経験があり、
先輩としてハラハラしつつ見守っていたら、案の定な展開になってしまったのだろう。
少なくとも、お茶席では笑うことなどできないから、映画館では心おきなく笑えたに違いない。

というわけで、なんとなく気になって見にいっただけの 割に、思いのほか豊かな幸福感を得られた作品だった。
もっとも、この映画を観ていちばん嬉しかったのは、自分の半生を黒木華に演じてもらえた原作者の森下典子かもしれないけれど。




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