どこかで起こっていたはずのもう一つの物語

                               ――――「がんばってい きまっしょい」を見る(1999.2.5)


朝日ベストテン映画祭で同邦画1位となった「がん ばっていきまっしょい」を見た。
監督の磯村一路という人は知らないが、制 作は「Shall We ダンス?」の周防正行で、
製作会社は周防が先輩の磯村 と自由な映画作りのために作ったものだそうで、宮崎駿制作の高畑勲作品のようなものか。

主演は「なっちゃん」こと田中麗奈。さすが九州出身と いうような立派な眉毛をしている。
個人的には「麗奈」という語感が派手すぎる気がするが、この際どうでもよい。

高校入学が決まった彼女は、海をすべる ように進む競技ボートに魅かれる。
入学後、ボート部に入部をしようとするが、学校に女子部はない。
仕方なく友人たちを秋の新人戦までという約束で集め、な んとか4人漕ぎボートのチームを作って活動を始めたものの・・・

と書くと、周防作品の「しこふんじゃった」のイメージだが、女子高校生のボート部と いうことで、もっとまじめに青春している。
しかも、入学から2年の秋までという1年半分の長さを2時間にまとめているので、濃密なスポ根もない。
むしろ 「桜の園」や「台風クラブ」といった女子高校生の独特のエネルギーが感じさせるタイプの映画だった。
それでも、ボートについてはまったくの素人だったはず の彼女らが、(劇中でも現実でも)自分たちで漕ぐところまでいっているのだから、
そんな成長ぶりも見ていて嬉しい。

しかも、実はこの彼女らが、私と全く同世代なのである。
映画は、冒頭、部の移転で廃 屋となった艇庫(クラブハウス!)を写す。
そして、その汚れた壁に貼られたまま残されている古い新聞記事のとなりに、5人の少女が写った1枚の古ぼけた写 真をみつける。
写真には「1977,10,24,新人戦」という書き込みがある。


彼女らの通う伊予東高校は名門校で(モデルは松山東高校だそうだ)、
授業も受験を意識し「お前らから共通一次が実施されるん分かっとろうが」なんてセリフもでてくる。
原作者は1961年生まれの松山東高校の卒業生で、小説は原 作者の1年先輩の物語であるらしい。
「私は書くことで高校時代をやりなおし、どん底の自分を励ましていた」と書いている 。

けっして重なることはなかったものの、どこかで必ず起こっていたにちがいない一つの 青春物語として、
物語そのものとともに、この物語を語りたいという製作者の思いを強く感じさせてくれた。

また、パンフレット代わりにワニブックスから
「映画「がんばっていきまっしょい」フォトブック・伊予東高校女子ボート部漕艇日誌」という本がでている。
いくつかの引用は、すべてここからのものである。これも、元気のでる本だった。
 


                    Wikipedia 「がんばっていきまっしょい」ページ

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