未知なる自分を知り、未知なる世界を知るということ

                   ――― 鴻上尚史「クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン」を読む(2016.10.23)

2006年から現在までNHK-BS「cool japan」の司会をしている劇作家で演出家の鴻上尚史が、
番組内で外国人によって語られる日本文化のありようを、再度、考察し直した新書である。
したがって、手放しで日本文化を絶賛するような大制翼賛系の本でもないし、
インターネットで転がっているクールジャパン情報を並べただけの安直な本でもない。

むろん、日本在住の外国人が「cool」と驚き、感動したことをテーマとする番組なので、
外国人の視点から見た日本文化の独自性を賞賛する場面は多い。
しかし、イギリス留学経験もある鴻上は、外国人がcoolと言った事実を展開させ、
その発言の文化的背景を探り、日本文化を相対化しようとする。

たとえば、あるイタリア人は、「アイスコーヒー」をクールだという。
なぜなら、コーヒーは香りを楽しむものなので、冷たくするという発想がないらしい。
また、「人間型ロボット」が日本の独壇場である理由は、手塚治虫以来の伝統なのではなく、
キリスト教社会では「人間を創る」のは神のみであり、宗教的に許されないからだという。

直箸問題は、さらに複雑だ。 西洋人にとっては、料理をシェアすること自体に相当な抵抗があるのに対し、
中国や韓国では料理を取り分けたり、直箸で鍋料理を食べることには何とも思わないが、
一部の日本人が行う逆さ箸については、手の汚れがつくようで抵抗がある、という。

このように、鴻上は番組で登場したエピソードを使いながら、
異文化から見た日本文化の面白さや利便性だけでは理解できない倫理観の違いなどを わかりやすく明確にしてくれる。
それゆえ、番組に寄せられたという「日本人として誇りを感じた」というような熱烈な感想には、
あとがきで「少し戸惑う」と書く。むしろ、いぶかる。

こうした心情の背景に、世界が不寛容になったせいで不安が増していることを挙げつつ、
本来、クールジャパンを知り、楽しむということは、 「未知なる自分と未知なる世界を知り、楽しむこと」であり、
「結果的に自分をよく知ること」なのである、とする。

ちなみに、2009年に番組が世界各国100人の外国人に対するアンケートから選定した 「これはクールだと思ったもの」ベスト20は次の通りである。
1位洗浄器付き便座、2位お花見、3位100円ショップ、4位花火、5位食品サンプル、6位おにぎり、7位カプセルホテル、
8位盆踊り、9位紅葉狩り、10位新幹線、11位居酒屋、12位富士登山、13位大阪人の気質、14位スーパー銭湯、
15位自動販売機、 16位立体駐車場、17位ICカード乗車券、18位ニッカボッカ、19位神前挙式、20位マンガ喫茶

さて、この異文化からのメッセージをみて、 私たちはどんな新しい自己像の読み取ることができるだろうか。



    
     講談社内「クール・ジャパン!?」紹介ページ         
     Wikipedia 鴻上尚史ページ
                       
     NHKサイト内「COOL JAPAN」ページ

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