2000.07.27up

縁日みやげ

上郷  伊織

刀@刀@

 閑静な山手の一等地。空調の効いたマンションは一室で、さかき卯人うひとは図面を描いていた。
 少しでも余暇が出来ると、最近は前倒しに余裕を持って仕事をするようになった。
 それも全ては恋人の存在ゆえである。
 恋人の名前は笠原かさはらしのぶ
 おとなしい性格に似合わぬ営業の仕事をする恋人は予定がなかなか立てられない程忙しく、お互いに忙しいと言っているととてもではないがデートの約束も出来ない。
 だから、恋人の予定が空いた時、いつでも時間が合わせられるよう、十分な余裕を持つのである。
 ほんの30分程前に電話があった。
 もうそろそろ忍の顔が見れるのだ。

 製図板から目をはなし、一つ伸びをしたところで玄関から物音がした。 

そして、合鍵を預けている恋人が息咳切って仕事部屋のドアをあけた。
「榊さん、見て」
 何にも代え難いほど、榊は彼を愛している。
 恋人が大事そうに両手に掲げて見せたのは。
 おにぎり用のパックに入った雛だった。
「これは?」
 不思議そうに榊が聞くと。
「縁日で見つけたんです」
 仕事の帰り道に遭遇した祭りの縁日で彼は「うずらすくい」というものを見かけたらしい。
 あまりの可愛らしさに、榊へのおみやげとして買ってきたそうだ。
「このままでは可哀相ですね」
 三角おにぎりが縦に3つ並ぶタイプのパックの中はかなり窮屈そうに見えた。
 榊はキッチンにあったビールの箱をカッターナイフで切り裂いて忍に渡した。
「取り敢えずの寝床です」
「榊さん・・・・・・」
 忍は喜んでくれたようだ。うっとりと感謝を称えた瞳で榊を見つめている。
「あ、飼い方は聞いてきました。後は新聞紙を破いたものを敷き詰めてやって、この餌を上げればいいそうです」
 愛しそうに小動物を見る忍は小さな子供のように純粋な表情だった。
「時々、様子を見に来ていいですか?」
「自由に来て良いと、いつも言っているでしょう」
 榊は久しぶりに忍の明るい笑顔が見られて、嬉しかった。
 また、これで頻繁に忍がこの部屋を訪れてくれるであろう事を思うと、この鶉の雛に感謝さえするのであった。


 忍の希望もあって、その日の雛の置き場所は寝室の出窓になった。
 ベッドの真上の出窓ならば、いつでも様子が見れるとの事である。
 飼ったばかりの小動物が気になって仕方がないらしい。
 忍が積極的に泊まってゆく、というのだから鶉さまさまである。
 その後、食事をして、それぞれにシャワーを浴びて寝床に付いた。
 恋人との平和な夜が訪れようとしていた。

刀@刀@

 薄暗い部屋の中。
 苦し気な、それでいて切な気な息遣いが、かすかに響いていた。
 広々とした寝室の中央には軋んだ音を立てるキングサイズのベッド。
 その上に絡まり合う二つの肢体。
 愛しの恋人を腕に抱き、榊卯人は恍惚の世界をさ迷っている。
 忍の内壁に包まれ、生き物のように自分の牡を蠢かせていた。
 細かく吐息を逃しながら、忍の華奢な腰が動く。
「ひっ・・・・・」
 不意に太股の当りから這い上がってくる引っ掻くような感触に忍は息を詰める。
 恋人の尋常でない様子に気付いた榊は不振に思った。
 まだ、忍の一番敏感なポイントに触れた覚えはない。
 普段から忍はどんなに感じていても、滅多な事では行為の最中に声を上げる事はないのだ。
「どうしました?」
「・・・・やっ・・・・そん・な・・・・」
 榊は動きを止めている。
 だが、忍はますます興奮の色を露にしだした。
「・・・・ぁ・・・・・・・」
 ため息と共に吐息を吐き出し、忍の眦から一粒の涙が零れでる。
 口を押さえる為の両手を榊の首にまわす。
 赤く塗れた唇からは、何か言いたげに時折舌がのぞく。
 扇情的な恋人に榊の牡はグンと力を増した。
「・・・・さか・・き・・・・さん・・・・・、んっ、・・・・ダメッ・・・・・」
 確かに榊の牡は忍の中にいる。
 だが、先ほどから全く動いていないのに・・・・・・・・。
「・・・つめ・、立てないで・・・・・ふっ・・・・・・」
 つめ・?・・・・あの指先の爪だろうか?
 榊の両手はがっしりと忍の腰を掴んでいる。
「しのぶくん? 私の手は此処です・・・・・・」
 そう言って、忍の腰を抱え直す。
「・・・・・や・・ぁ・・! だって・・・・。・・・・・榊さん、触ってる・・・・」
 忍は信じていない。
「目を開けて見て下さい」
 仕方なく榊は忍の腰から手を放し、目の前に両手を翳した。
「・・・それじゃ・・・・なに? これ、なに?」
 困惑しながらも、忍の腰は蠢いていた。
 榊はヘッドボードに手を伸ばし、電気を点ける。
 忍の困惑顔が真っ先に視界に入る。
 しどけない忍の痴態に思わず、ゴクリと喉が鳴る。
 続いて視線をそこから下に向ける。
 思わず、榊は吹き出した。
「闖入者のようですね」
 榊の視線を追って忍も首を上げる。
 二人の腹の間にそそり立つモノの裏側。
 付け根の辺りに、ちょこんと鶉の雛が乗っていた。
 ピー、ピーと可愛い声で泣きながら何とかそこをよじ登ろうと努力しているのだ。
「・・・・・う〜・・・」
 忍は真っ赤になって、榊に救いを求めるような瞳を向けた。
 榊の目の前で自分自身に触るのに抵抗があったのだ。
 雛を怖がらせないよう、榊はそっと手を差し伸べた。
 だが、動物慣れしていない榊は判断を誤った。
 雛のお尻の方に指を出したのだ。
 驚いた雛は一目散に逃げようと榊の指をバネに飛び上がった。
「・・・やぁっ・・・・・・」
 その直後、雛は中央付近に着地。
「・・・・・うっ・・・・・・・・」
 急な忍の締め付けに、榊はうめき声を上げた。
 とっかっかりを見つけたのか、凄い勢いで先端までよじ登っていく。
「やだっ・・・・・」
 雛だとわかると忍は一層の羞恥心を煽られる。
 腰を蠢かし、なんとか雛を傷付けずに落とそうと試みる。
 それは、榊にとって拷問でしかなかった。
 ただでさえ、締め付けの厳しい忍の内部は、今、通常よりも力を持ち、腰の余波で揺すられ、伸縮を繰り返す。
 そんな事とはお構いなしに、雛はすべって落ちそうになり、先走りの液を滴らせる秘所に嘴を突き立てた。
「・・・・・ぁ・・・・、いやぁっっっ・・・・・・・」
 その刺激に、我慢の限界にあった忍は精を吐き出した。
 最後の締め付けに、榊も同時に白濁を放っていた。

 荒い息遣いに混じって、力無い「ぴー」という泣き声が聞こえる。
 我に返った榊は、そこを見下ろした。
 そこには、白濁にまみれ、忍の腹にペッタリと貼りついた哀れな雛の姿があった。
 事後のけだるさを身に纏い、胸を上下させている忍は気付いていないようだった。
 榊は忍ごと雛を抱え上げた。
「・・・・な・に・・?」
 自分がどうして抱え上げられたのか理解しきれないのだろう。
 忍はぼんやりと榊を見つめている。
「一緒に洗ってあげます」
 その言葉を聞いた途端忍はジタバタと暴れ始める。
 榊が誘っても、決して忍は一緒に風呂に入ろうとはしない。
「暴れると、雛が落ちますよ」
 歩きながら榊は言った。
 バスルームのドアを開く。
 忍は慌てて雛を手に取った。
「僕はこの子と入ります」
 榊はもう一歩踏み出した。
「手後れです」
 言ったと同時に忍はバスタブに降ろされた。

刀@刀@

「忍くん・・・・」
 声を掛けても恋人は返事をしない。
 榊に身体を洗われたのが、余程、気に入らなかったらしい。
 確かに洗うだけでなく、色々触りもした・・・・・・・。
 自身の放った白濁を掻き出しもした。
 怒っても当然かもしれない。
 それとも、雛の件がショックだったのか・・・・。
 可哀想に忍は局部に見えないほどの細かな引っ掻き傷が出来ていた。
 忍は榊に背を向けたまま、動く気配を見せなかった。
 仕方なく、榊は鶉の雛にドライヤーを掛け始めた。
 片手に包み込めてしまう程小さな雛の羽は程なくしてさらさらの状態になる。
「ぴっ」
 手のひらに乗せると不思議そうな素振りで榊を見上げていた。

「おいしかったかい?」
 口元に雛を近づけそう聞いた。
 
 雛からの返事はない。
「さかきさん!」
 代わりに顔を真っ赤に染めた忍が、今にも泣き出しそうな顔で榊を睨んでいた。
 やっとベッドから顔を覗かせた恋人を、榊は大切に抱きしめた。


 


 今夜は良い事を教えてもらった。
 やはり、小動物は大切にすべきですね。
 榊は心の中で囁いた。
 

                          おしまい

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