「コスモスの詩」

米田 実  詩・曲
中西 覚  編 曲
コスモスが秋の 空き地に揺れる
待つ人のない さびれた庭 思い出が通り過ぎる
去年まではここが 花に囲まれてた
やさしい人の 愛の手で育てられた
    コスモスが秋の 空き地に揺れる
    待つ人のない さびれた庭 思い出が通り過ぎる
    去年まではここが 花に囲まれてた
    やさしい人の 愛の手で育てられた
コスモスが秋の 日差しの中で
仲間たちと共に過ごした 季節の終わりを思う
きっとまた会おう 花は眠りにつく
やさしい人が 起こしてくれる春になれば
君は 聞いただろう
地の底の裂ける音(揺れる!)
大地の怒りの声(揺れる!揺れる!)
崩れ落ちる 君の上に(崩れる!)
牙をむいた闇の中に 倒れる(倒れる!)

  何が起こったのか 君にはわからない
  頭の上にのしかかる重さで 目を覚ます
  冬の盛りの 眠りの中で
  やさしい人の叫び声を 聞いた気がする

起きなけりゃ 起きなけりゃ
顔を出してみなければわからない
水がほしい 光がほしい
暖かさがほしい


  春はまだ遠い (君は動けない)
  乾いた土の中で 何を思ってる

足音が通り過ぎる たくさんの人達の
重い荷物を背負い 無口なまま歩いて行く
崩落ち垂れ下がる レールを側に見て
人は電車に乗れる駅へと続く

  まだ鎮まらぬ地の怒り 地の震え 今も

家を奪われ 思い出を無くして
今も続く恐怖に脅える人達は
住み慣れたこの街を 去って行く

  コスモスは今 瓦礫の下で
  やさしい人の帰りを待っている
  春よ来い 暖かい春
  きっと また会える 春
日が暮れて今日も 長い夜が訪れる
明かりの絶えた 街はすべてを闇に包む
ひび割れた道 傾いた家 そして生きる希望も

もう何も見えない 失ったものが多すぎるから
時計の針は止まったまま あの朝を忘れない

  目をあけて 目をあけて 朝が来る
  あの忌まわしい時刻を越えて 日は昇る
  泣いていても確かに今 生きてる
  涙の乾く間もなく 街は動き始める
鉄の爪の怪獣が暴れ回るこの街を
喜びも悲しみも 見守って来た
家に襲いかかる 煙を吐きながら
木の裂ける音 倒れる柱 埃に消える


  鉄の爪の怪獣が トラックへ積み込むものは
  この家に染み込んだ 涙と汗の跡
  戻ることはできない 明日が見えなくても
  心の隅に 押しやるだけの 思い出に変わる

鉄の爪の怪獣が 去った後は
コンクリートの基礎と 踏み荒らされた庭
家に寄り添い傷ついたコスモスが残るだけ
凍てついた土の中で 引き裂かれた身体を癒す
コスモスには遠い春 街はまだ冬の色
暖かい風が土の中にも 季節を運んでやってくる
どんなに辛い冬でも 春は巡り来る
緑の生命は絶えることなく
ひび割れた街に 今よみがえる

  春を迎えたコスモスがやっと顔を出す
  待ちに待った太陽が輝いている
  だけど 近くに見えるものはない
  伸びろ 伸びろ 何かがきっと見えるはず
  伸びろ 伸びろ もう少し もう少し


何にもない 何にもない 家も仲間の花達も
やさしい人は何処?
春になると起こしてくれる やさしい人は何処
春なのに 春なのに 悲しい別れを知るなんて
耐えてきた冬は何のため
コスモスの回りには 雑草が芽を出す
花を咲かすことのない 嫌われものが迫る
近寄らないで 私のそばへ コスモスは叫ぶ
やさしい人がいた時は こんな思いはしなかった


  だけど今 コスモスが花を咲かせてみても
  見る人がいなければ 雑草と同じ

緑の風が 夏色に変わる頃
ひとつ又ひとつ 家が建ち始める
その歩みは小さいけれど この街を愛する人がいる
だから必ず 帰って来ると信じてほしい

  大きく伸びたコスモスは 空き地を眺め思ってる
  きっと ここで 花を咲かせてみせる
照りつける太陽 雲ひとつない空
日影のない空き地は 焼けて乾いてゆく
夏草に囲まれて コスモスの力は失せて行く
いつもならば 花のひとつも咲かせる頃
このまましおれてしまうのか
薄れゆく意識の中で やさしい人の顔が浮かぶ
もう会えぬ もう‥‥‥


  その時 ペットボトルの水が 身体に降りかかる
  夢の中で 何度も見た やさしい人が立っている
  コスモスを忘れずに 帰って来た


の気配が迫る頃 やっとひとつの花をつけ
コスモスが揺れている 空き地の中で光を集め
咲いた喜びにあふれてる
この街に帰って来る人のため
ここに咲き続けよう ああー


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