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今日、学校の昼休みに校内放送があった。
生徒が一人、急性の病気のため亡くなったというのだ。
その時は別段気にもしなかった。
でも自分の教室に戻ると皆が一様に暗い表情をしていた。
皆の視線の中心には一輪の花が置かれた机。
一番後ろの一番端の机。
その時私は理解した。
ああ。
彼女はもう飛び立ったんだ、と。
そして一週間後、彼がこの町へ戻ってきた。
前見た時より少しくたびれた人形を伴って。
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NORTH
EMURATOR CULBさんへ……CGありがとう小野寺さん……
AIR Minagi Scenario After
『Dear』
Written by 津々羅
00.10.13
「遠野さんじゃぁねぇ〜」
「………バイチャ」
「へ?」
「………バイチャバーイチャ」
「ふ、古いねぇ」
「……ンチャ」
「……じゃ、じゃぁ私行くから……あは、あははは」
クラスメイトと別れ、一人校門へ。
結構自信があったのに先程のは少し古いらしい。
……思案のしどころだろう。
次はどんな挨拶をしようか考えながら歩く。
今度はもっと新しいのが良いだろう。
……私は良いと思ったのだけれど……上手くいかないものです……
さて……
……考えながら歩く。
目指す校門の向こうには海が広がっていた。
そして道と海とを仕切るようにして塀が立ち並んでいる。
今日の出来事。
亡くなった人。
笑顔。
涙。
……彼女はあの風景の向こうに行ったんでしょうね……
いつもあの塀から空を見上げていた彼女を思い出す。
明るい表情をいつも向けてきた彼女。
性格も良くて、一緒に居ると楽しそうな彼女。
でも友達は出来なかった。
なぜなら彼女がすぐ泣くから。
私たちを拒否するから。
校門を抜ける。
その瞬間、海からの風が私を包んでくれた。
それはとても気持ち良いもので、その流れに乗るようにすっと目を細める。
と、太陽に雲がかかったのか目の前が暗くなり、風も止んだ。
……違う。
止んだのではなかった。
遮られたのだ。
私にその影が落ちる。
そして驚きも。
「よぉ」
「…………」
「よぉ」
「…………」
「やぁっほー」
「…………おっはー」
「……いつも思うんだがおまえのそのセンスが分からん」
「……そう?」
「ああ」
「……新しいのに……」
「あ、新しいは新しいがな……ってあ〜もういい」
あ、あれかな……
えと……一…二……?
……ううんこれも……
……はい…
「って違う!進呈はいいって!」
「……お米おいしいのに……」
手に持った多分23枚のお米券をしまう。
右のポケットに入っていた全てのお米券だったが……
左のポケットの中身も欲しかったのかな……
そんな風にごそごそしている私を、
「……はぁほんと変わってないな……」
彼がそう言って半眼でこっちを見つめる。
……ほんとに彼だ。
……国崎さん……
「……帰ってきたんですね……」
「ただいまって奴かな」
半年ぶりに会った青年はあの時と変わっていないように見えた。
あの約束した別れの時と。
でも……
目的が無くなったんだ。
彼はそう言った。
無くなったのが分かったんだ。
そうとも言った。
*
私たちは帰り道を歩きながらお互いの事を話した。
あまり話さない質の私も、久しぶりに会う彼の前では幾つも話す事があった。
彼も私の話に感化されたのか、私と別れた後の状況について話してくれたりした。
この頃の事。
学校の事。
部活動の事。
家族の事。
私は少し歩みを速め、彼の前を歩く。
話の流れから、彼が次に聞いてくることが分かったから。
なんてことはない、妹の事だ。
「妹……いや……みちるとはどうだ?」
「……仲、良いですよ」
「そうか」
「………仲、良いです………あの子はもう…居ませんけれど……」
「そうか」
「………やっぱり違いました……」
「……遠野」
後ろから彼の気遣いの声。
だけれど私は彼の声に振り向かず視線をまっすぐに……
ただ帰り道の行き先を確認するだけかのように言葉を続ける。
「…初めは生まれ変わりかとも思いました……」
一目見たその子は確かにみちるの容姿、性格をしていた。
そして、あの時の様に私はシャボン玉を教えも……
「…でも、違います…みちるはみちるじゃないんです……」
でも一緒に居て、一緒に話して、一緒に遊んで……
あの子があのみちるじゃない事がハッキリしてくる。
何かする事に違和感。
一緒に居て違和感。
一緒に話して違和感。
一緒に遊んで違和感。
やはりあの子は妹であって、みちるではないのだ。
私との大事な記憶を一杯持った、あのみちるじゃない。
……だから……偶に辛くなる。
あの子はとても良い子だ。
みちるのようなとても良い子。
でもあの子が居ると、みちるが居なくなった事をよけいに浮き上がらせてしまう。
それが偶に辛い。
「…すごく似ているんですけれど、ね」
そう言って私は彼に向かって微笑む。
頑張って作った笑みを。
なのに振り向いた先の国崎さんは何故か悲しそうな顔をしていた。
上手く微笑めたような、気がしたのに。
約束の笑み。
そう、これは多分あの約束が私を支えてくれたから出せる笑み。
だからとても綺麗な笑みのはず……
みちるが誉めてくれるような、笑っている私のはず。
でも、国崎さんは私を抱き締めてくれていた。
きゅっと胸元が締まる。
涙はあの時に出し尽くしたからもう出ない。
約束があるから出ない。
でも、
心が少し、藍色になっていた。
そんな私を彼は気づいていたのだ。
だから彼に抱かれる事が、今は必要だったのかもしれない。
*
そのままの体勢のまま、ゆったりとした時間が流れていた。
私は腕を使って彼をやさしく押し戻し、笑う。
今度は綺麗に笑えた……?
彼は何時になく優しい表情だった。
珍しいと言ったら怒るだろうか?
……ほんと優しいのに……
*
「俺は今あの家に行かなきゃならないんだろうな」
「………行くんですか……」
「居なくなったんだろ観鈴が。そしてこの空白感」
「………」
「簡単だ。観鈴が空にいる少女にやっぱり関係あったって事だ」
「……でももう彼女は居ませんよ……行っても会えません……」
「…ああ。でも俺は……」
約束を果たさないといけない。
幸せにしてやらないといけない。
それがあいつとの約束だから。
国崎さんはそう言って、悲しそうに笑う。
*
夕陽が私達を照らす。
長さの違う影達。
その影はある家の玄関に掛かっていた。
……人の気配が全くしない、死んだ家に。
「……家が空家になってるなんてな……」
「……この家の方は彼女が亡くなってすぐに引っ越されたようですね……」
「…………はは……」
「……大丈夫ですか?」
「あ……ああ……………ま、正直、ここまで堪えるとは思ってなかったけどな……」
気落ちしている。
だけれど私には何も答えられない。
……悲しすぎる事では、ないから……
薄情かとも思ったがやはり違うのだ。
私は彼女について何も知らないのだから。
でも、
彼にとって彼女は……
彼にとってその重みは……
「……観鈴っ………すまんっ……」
ギリッと歯がきしむ音が耳に届いた。
*
あの家から離れてから二人で歩いた。
ただ歩いていた。
会話など無かった。
私も声を掛けることができなかったし、
彼もまた話す気力がなかったようだ。
それでも時間が経ち、周りが暗くなる頃、あの思い出の場所に来ると心に想いが広がってくる。
それは彼も同じようで、幾分いつもの表情が見え隠れするようになっていた。
「……すっかり夜になっちまったな……」
「……はい……」
「結局最後はこのぼろっちぃ駅か……」
「……くすっ……」
「笑うなよ………………あ〜あ、俺……目的が消えてしまったな……」
そう言って彼は道端の空き缶をコーンと蹴る。
空缶は一度バウンドした後、ころころと転がると道路の脇の溝に落ちる。
あちゃー、とした表情を見せ、素振りをする彼からして、どうやらあの空缶をずっと蹴って行くつもりだったらしい。
なかなか思い通りに行かないものだ……
私は横で憮然とした顔になった国崎さんを見てくすっと笑う。
ほんと、ツリ目で怖そうな顔なのに子供っぽい。
でも駄目だった私を引っ張り上げてくれた人。
そして優しくて大事な、人。
私は想いを再確認する。
私は並び立つ彼と共にこれからも歩いていきたい、と心からそう思う。
だから空を見上げた。
もう夕方を越え、私達に届く光を見るために。
悩み苦しむ彼に答えを出してもらう為に。
いつしか私が助けてもらった様に、こんどは私が彼の背を押す為に。
だって……
今、彼は泣いているから。
涙を流さず泣いている彼を、助けてあげたいから……
「…星は綺麗ですね」
「永遠の輝きって奴か」
彼も私と同じように空を仰ぐ。
二人の視線の先には先ほどまではかすかな光しかなかった星達が己をめいっぱい主張している。
それを今受けるのは、私達の瞳だけ。
長い旅を経てやっと私達の元へ辿りつく光達……
「……でも私達が見ている星はもう過去のものなんです」
「そうだな」
「……光が届くだけの時間……それを見ている…私達」
「……その残り火しか見れない私達…でも、そうだから…それしかできないから……出来る事をするんです……」
静かに私達は向かい合う。
だけれど視線は微妙に噛み合わない……
彼の心にあるわだかまりが、まだ私の想い、伝えたい事を遮っているのだ。
だから彼は私から視線を逸らし、
一言。
「なら…………俺は旅に出る」
ひどい言葉、だ。
やっぱり……
彼はやはりその答えを、離別を言うために……
前のような再会の別れではなく……完全な別れを…・・・
私はそんな事、悩んで欲しくないのにっ……
「……どうしてそう……私に……言えるんですかっ……」
「俺に……できることなんて旅と、このちゃちな人形での芸だけだからな……」
彼はそう言うと私を振り切る様に離れていく。
視線はもう私を見ていない。
皮肉げで、でもとても温かい視線がもう私を包んでいない……
……嫌……
……国崎さん……
声が出ない。
意思が伝わらない。
彼が離れていく。
……目的が……鎖がないから……そういう風に決めてしまうのですか……?
彼は旅の人。
彼の道連れは二つ
あるのは一人でに動く古ぼけた小さな人形。
あるのはもう果たされない約束。
その小さく、だけれど重い荷物と共に。
また、旅に出てしまう。
今度はもう私の元に帰ってこない。
……嫌……
目に熱いものを感じる。
彼の姿が滲む。
彼が……居なくなる。
そう考えた瞬間、
私は走り出していた。
ぐんぐん縮まる距離。
彼はまだ気づかないけれど、
私は後ろから抱き締める。
腕を回し、
彼を縛る。
「遠野っ!」
彼の叫びが耳朶を打つ。
でもぎゅっと私の元に、縛る。
もう放さない!
「………神尾さんは飛び立ってしまった……あなたを縛る鎖と共に…」
目が、頬が熱い。
両目からあふれでる水。
「お前……泣いて……」
約束したのに……ごめんねみちる………
でもね……溢れる感情は……
止められないの……
私の感情が口から溢れ出す。
それは言いたくて言いたくて……
彼との前の別れの時にも言いたかったのに、言えなかった。
でも今なら言える。
言わなきゃならない。
「なら………今度は……」
今から……
「……私があなたの鎖になってもいいですか……」
私が……
「……あなたを私が縛ります……だから……」
だから……
「私を幸せにしてくれませんか?」
「あなたができる事」
「わたしが求める物」
何が違うの?
何も違わないのに?
同じ筈なのに。
私とあなたは彼女を通して心が通ったのだから……
「……私を」
お願い……
「私を幸せにしてくれませんか」
*
言った。
言ってしまった。
彼が身じろぎも何もしなくなった。
恐ろしいほどの静寂。
その中に私と彼の呼吸と心音だけが聞こえてくる。
思わず目を瞑る。
耳を塞ぎたい。
淡い期待と、でもそれよりも途方無く大きな、もしかしたらという恐ろしさ。
どうして私はそんな事を言ってしまったのだろう……
言わなければこんな恐ろしい思いをしなくても済んだのに……
彼はまだ悩んでいたのに。
神尾さんが居なくなって目的が消えてしまって、
それに対して何も出来なくて、約束も果たせなくて……
泣いていたのに……
私の事なんて入る余地も無いのに……
どうして……
私は……
「………あ〜あ。何言ってたんだ?俺」
明るい疑念の声がした。
勢いも何も無い間延びした声が私の腕の中の人から発せられたのだ。
……思わず顔を上げる……
軽く腕を持たれ、その手を取られる。
そのまま彼はこちらへ振り向く。
彼の口元には笑み。
視線はまだ私の髪の上だ。
遠くを、見ている。
「俺ってさ。実は不幸なんだよなぁ…知ってたっけか? 俺はさ、親もういないし、家無いし、浮浪者だし、腹は減るし、服は黒一着だけだし、人形愛想無いし、ガキは俺より強いしよ……」
彼は一息でそこまでいうと、すっと目を細め私を見つめる。
今度は視線が外れない。
「んでもって今回の事は………目的が……生きる目的がなくなって……何も出来なくて……何も果たせない無力感があった……」
……分かっています……そしてあなたが深く苦悩していたのも……
私は今度こそ視線で彼に想いを届ける。
「何も出来ない……何も果たせない……旅して芸してそれしか出来ない…………か」
吐息と共に彼はその言葉を放ち、息を吸い、
「違うよな。俺にもできること、あったんだよな……」
その闇を振り切った。
そして彼は確信する。
「幸せってのをつくっていけるんだよな」
私は頷く。
彼はやっと気づいてくれたから……
そして……
「それには……俺には、遠野が……美凪が必要なんだ」
……え……
言葉が……来た。
本当に待ち望んでいた想いと共に、国崎さんからの言葉が。
言葉を意味に変え理解をすると頬が熱くなる。
目元も熱い。
「……いっしょに行くか?」
どうして彼は私にそんな分かりきったことを聞くのかな……
……もう私の答えは彼と共に、としか考えられないのに。
「……当たりまえまえです」
そう言って私は彼に笑顔を見せる。
その笑顔には涙が浮かんでいたが……
……みちる……嬉し涙は、別に良いよね……
だってこんなにも胸が一杯で……こんなにも自然に笑えるのだから……
そして彼が私を抱き締める。
そのぬくもりの中、私は祈る。
みちるが神様からの贈り物だったとしたら、神様もまた居るはずだから。
私は風に、想いを乗せる。
羽在る神様が居られる星の元へ。
私の願いを届けてもらうために。
私達が永遠に離れない様に。
星よ、どうか私達に幸せを。
<END>
[感想掲示板]
|
後書き (written by 津々羅)
『AIR』をやって感動し、
その内容ゆえ書こうか書くまいか悩んだ末、
観鈴には余り触れずに行くことにしました。
結局書いたのは美凪さん。
キャラ的に好きだ、というのもあるのですが、
一番3人の中で中途半端のような気がしたので。
コンセプトは『住人帰還』と『約束』です。
美凪シナリオの後、やはり観鈴は死んでしまうのかな、
とか、住人が戻ってくる時、っていうのを考え、
そして二人は約束を守りきれるか、というのをつらつらと。
まぁ、このSSの中では約束が全て、といっていいほど破られています。
で、美凪さんのだけは守って欲しいなと<守ってないけど
結構約束って守りづらいですね。
破りたくて破るんじゃない。
果たせないだけだってな感じ。
皆さんも約束事には要注意ですよ(笑)
私にしては久方の短編。
投稿するのはちょっとドキドキもんだったりします。
読み終えた後、スムーズに読めて貰えたのなら……成功かな?
そして少しでもよかったなと思っていただけたら……大成功でしょう。
これから『AIR』を題材にして書くかは分かりませんが、
書くなら乾坤一擲ですな。
『AIR』だけは特に気が抜けないので……<他のも抜けませんが(^^;
ではまた何処かの何かの作品で。
<10/14>
小野寺さんから挿絵を貰いました!
うれしすぎて即効で載せちゃいました(^^
その場面にリンクが張ってありますので是非見てください♪
やっぱり文字は絵の情報量には勝てないなぁと思うの心。
自分の小説の場面がCGになるのがこんなにうれしいとは……
ほんとありがとうございます小野寺さん……