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 言葉の力
 私を動かしているのはまさしくそれだった。

 君の誕生日に何かプレゼントする。

 普通に聞けばただの素っ気無い言葉。

 ――けれども。

 彼が居ない今となってはその言葉の意味はとても、とても、私を魅惑した。

 誰しもが持つ言葉。

 その言葉の力が恐い事を、あらためて知る。
 それも目の前の普通の少女から

 彼女に浮かんだ笑み

 それを見た瞬間、私は彼女から顔を背けていた。

 そうして拒絶した私に向けられるのは言葉。



 たった四音だ。



「こうへい」



 彼女の口からは、たった四音。
 たった四音の有無を言わせぬ言葉。



「こうへいだよね」



 彼女の明るい声で繰り返された言葉に、
 私はゆっくりと彼女へ向き



 どうして……?



 と、そう呟くしかなかった。

 


Tactics 『ONE〜輝く季節へ〜』

鳴り止まぬ、止まる刻(とき)

 

§3 −想い、少女二人−

 

Written by 津々羅

02/09/28


「どんな顔?
 どんな癖?
 どんな思い出?



 こうへいって誰だろう。

 

 分からない。
 知らない。

 でも、確かに感じることがあったの。



 こうへいは私にとって大事な人だって」



 淡々とした言葉。
 たがそれは、私には細くて長くて鋭い針で。
 肌をぷすり、ぷすりと刺している。

 刺された場所からは血が流れるのは当たり前。

 ココロの傷がココロの血を流す。



 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ



 私はその言葉の針を拒絶して、目を閉じ震える体を抱きしめ立ち上がると、
 ふらふらと後ずさるようにしてドアにもたれかかる。



「わたしにはね、その人がどんな人かも全然分からなかったよ。

 ただ、いつも日常に違和感があっただけ。
 ただ、ぬいぐるみが傍に居ただけ。

 そして今もただ、
 分かったことといえば、その声の主がこうへいだということだけ。



 こうへいという名がその人の名前だと。
 そんな小さなことでさえ、やっと分かったんだよ。



 だけれど、それだけでも浮かんだんだよ。

 今、私にこうへいという言葉が浮かんできて。
 私にとって大事な人だと、とてもかけがえの無い人だと分かったんだから。



 こうへい。



 こうへい……。



 ねぇ、教えてくれないかな?

 こんな顔。
 こんな癖。
 こんな思い出。

 ……教えてくれないかな?

 私が感じていた机への違和感。
 日常への違和感。
 それを里村さんも感じていると思ったから、誘ったんだよ。

 そして、昨日、あなたが知っているんじゃないかなって確信へ変わって。

 昨日のあなたのぬいぐるみを前にした態度、行動。

 それで分かったんだ。
 
 ああ、あなたは私の求めて止まない欠片を持っているって。



 あなたの声が私のこうへいを浮かび上がらせてくれるって。



 わたしが無くしてしまったものを、貴方は今でも持っているんだよね?

 あなたのなかのこうへいを。

 わたしのなかにあったはずのものを。



 わたしから奪ったものを、カエシテクレナイカナ……」



 いつのまにか彼女が目の前に居た。
 彼女の吐息が私の身体を包み込むような、そんな近い近い場所に。



 彼女がにっこりと笑い、私に向かって手を差し出す。
 返してね、と無邪気な笑顔で。



「来ないで……っ」 



 限界だった。



 口に溢れる嫌悪感。
 誰にとっても近いところに居れる人からの、誰にとっても近いところからの悪意。

 彼女の才能、彼女の雰囲気、彼女の息遣い、彼女の鼓動。
 いつもは光り輝く彼女のそれらを、
 今、どれも、とても、怖く感じた。

 私は逃げるように立ち上がり、ただここから離れたいという想いが身体を動かした。
 ここから、長森さんから逃げたい。

 ただその一心だけで。

 私はドアを倒れこむように押し開け、無様に床を這いずる様に足掻き、彼女の元から外へと逃げ出した。







 動悸が激しい。
 どく、どく、と何かが口から飛び出しそうになる。

 何かが。

「う……」

 それを吐き出してはいけない。
 吐き出さないために、走りながらも口を必死に押さえた。
 吐き出してしまえば楽になれるのに、吐き出してはいけないのだとココロが拒絶する。



−どうして……。



 口から漏れでそうになるその言葉。
 頭の中をぐるぐるぐるぐると駆け回るソレ。

 自分が泣きそうになっているのが分かる。
 そしてその理由、知りたくなかった現実を突きつけられた痛みのせいだった。

 やはり、進んでいたのだ。
 止まってはいなかったのだ。



 私だけになった今、浩平を消し去った力はもう無くなり、後はただただ信じて。
 誰も覚えていなくなっても、私だけは覚えていますよ、とあなたに伝えるために待って。

 後は、いつか、彼が帰ってきてくれることを待つのだけなのだと思い込んでいた。

 だが、違ったのだ。

 彼を消し去った力は、未だ私の周りを包んでいて。
 そして今また彼の残滓を消していっているのだと、思い知らされた。



 でも、一番怖かったのは、
 それではなかった。



 彼女の笑顔。



 彼女の笑顔が一番、怖かった。
 
 

 言葉を聞いた後、その変わらぬ笑顔の意味。
 逃げ出すあの瞬間彼女は最後に呟いたのだ。



 笑顔のままの言葉で、 

「里村さんにはもう何もあげたくないんだよ」

 と。

 それは笑顔で覆われた無邪気な敵意。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ」



 考えを振り切るように走り、それに伴い風景が流れていく。
 その中で匂いが変わった。

 空気の中の水分、その分重くなった空気が私の肺に入ってくる。
 湿り、重くなる世界の雰囲気。
 そして、一つ、二つと身に落ちてくる冷たいもの。



 その感触に立ち止まり、空を見上げた。



「雨……」



 灰色の空から落ちてくる雫に、私の足は自然、家への逃避からあの場所への逃避へと。

 いつもの空き地への想いよりも先に、傷ついた羽を休めるように身体がその場所を求めていた。

 無意識に。

 生まれたての雛が親鳥を認識するように。
 刷り込まれた行動のように。



 そして、やはり誰も居ないその場所で、彼の残滓を求めるように、その場の空気を掻き抱きながら。
 湿った地面に崩れ落ちながら。



 私は泣いた。



「浩平……浩平……っ」



 簒奪者の私を、許してくれる貴方。



−早く戻ってきて……かえってきてよぉ……。



 ただ、泣いた。







 酷い格好。
 
 雨に塗れ、冷え切った身体を引きずりながら鍵を開け、玄関を開ける。
 そうして自宅に帰った後、人の気配のしない暗闇の中に灯る緑色の点滅。

 留守番電話の録音再生ボタンが、ただ私を待ちうけていた。

 震える手でそのボタンを押し、

『ピー。待機メッセージは1件です』

 その電話から一歩、あとずさる。



 なぜなら分かっているから。
 あの光が嫌なモノだとどこかで感じているからだ。

 それでもあのボタンを押すのは、ただ、現実は違ってほしいという縋る思いがあったから。
 恐々ながらも、聞かなれけばならなかった。

 違っていて欲しい。
 


 本当は今私が居るのが夢の中で、目が覚めたら『お寝坊だな』と浩平が苦笑してくれるのだと。

 が、やはり現実は――



『あ、里村さん? 私です。長森です。今日は来てくれてありがとう。私とても楽しかったよー。だって』

『私から奪っていった人が貴方だと分かったんだから』

『後は貴方から返してもらうだけだから』

『じゃぁ――これからも宜しく、だよ』



 無邪気な言葉が私を打ちのめしタ。



 そのまま私は、ただ、その場でうずくまって助けてと呟き、
 何かに懺悔する様に、
 そのまま力尽き、
 気を失うようにして倒れ、



 次の日、私は学校を無断欠席をした。

§4−−に続く] [感想掲示板]

 


後書き (written by 津々羅)

 

ほんとに気ままな更新になってるこの頃ですが、
やはり書きたいと思った時にしか書けないようです(´−`).。oO()

続きを待たれていて励ましてくれたり。
ほんと嬉しいのに遅くなってしまい申し訳ありません。
続きは書こうといつも思って居ますから、気長にお待ちいただけたら……嬉しいなと。

しかし。

書けば書くほど長森さんがうへー。
いや、まぁしょうがないんですが、設定上^^;
それでも他にあんまりないような作品にはなるかなと。

空想で激しく楽しんでる自分ですし。

そういえばONE2してないなぁ……どうなんだろう。
評判は悪くもないし……ううむw