 いつもなら気だるい朝なのだが、珍しく、本当に珍しくその日はスパッと起きた。
あの爆音を聞かずに起きれる事自体、既に僥倖なのだが、あまりに綺麗に起きすぎたためか、二度寝するほどの眠気も全くない。
そして何気に時計を見て見ると俺にとって奇跡が起きたとしか思えないほどの、早朝。
こりゃもう思えないほど、じゃなくて奇跡に違いない。
何なんだ一体?
世界でも滅ぶのか?
思わず自分でも不吉な予感に背筋が震える
が、
まぁ……折角起きたし……悪い事ではないはずだ……
外からは綺麗な光が射して来る。
それをぼけらーっと見ていたら、なぜだか無性に散歩したくなった。
「境内にでも行くか……」
何気に口に出してみると、それがとても良い案のようで。
椅子にかけていたジャンパーを羽織りつつ、部屋から出る。
廊下でさえ既に寒かったが、外はもっと寒かった。
流石は早朝と言ったところか。
少し、止めときゃよかったかなぁと思いつつ寒さに身体を震わせ視線を前に。
と、そこには先客がいた。
−そう言えば……いつもこの時間なんだな……
境内で箒を持っている長い黒髪の少女。
いつものとおり、身なりもきちっと巫女さんだった。
寒空の中、よくあの服装だけでいられるもんだと感心する。
この我が家の巫女さんが、さっ、さっ、と掃く様は流石に手慣れた物で、砂埃を上げずに綺麗にゴミをだけを集めていた。
「静音ぇ〜」
軽く声を掛けるが静音は相変わらず掃き掃除。
掃くテンポも一定で、こちらに気付いた様子は全くない。
「ったく……しょうがねぇなぁ……」
俺はたっと石畳を蹴り、リズムを身体で感じながら、掃除の虜になっている静音に向かって軽く走る。
タッタッタッと小気味良い音が俺の身体を通って外へと抜けていく。
夢中になるほど面白いかねぇ……
口元には苦笑を携え、眼前に迫った静音の背に向かって呼び――
「しず――」
――かけると同時にあいつが振り向いた。
「あ、隆宏様……!」
そして、『俺』を認識した瞬間、眠そうな顔から瞬時切り替わっていく花咲く笑顔。
それが見えてしまった俺は……
動悸。
心臓の叩く音がはっきりと胸に残る。
「くすっ……こんな時間に起きるなんて……珍しい事もあるものですね。今日はこんなに晴れてるけれど午後からは雨かなぁ、なんて……くすくすくすっ♪」
静音の長い長い黒髪が、笑うことでふわふわ揺れる。
快晴の今日。
日の光が静音を優しく包んで……とても、綺麗だ。
綺麗……
って何考えてんだ俺は!?
見てられず、思わず顔を背けた。
顔が熱い。
と、そんな俺の行動を疑問に思ったのか、その俺を覗き込むように下から見上げて来る静音。
「? 隆宏様どうしたんですかぁ?」
律義にしゃがんでやがる……
じゃねえ!!
「朝食はまだかなって思っただけだっ!」
ばっと空気を震わし、踵を返して家に戻る俺。
しかたないだろう?
今の俺の顔をあいつに見られるわけには、いかないのだ。
「え? え?
あ、ま、待ってくださいよぉ!
まだっ、まだっ、掃除がまだっ」
後ろでわたわたと慌てる静音の様が、その声だけではっきりと脳裏に想像できた。
今、静音は掃除を終らしてから朝食にするか、今すぐ朝食を作るかで大いに悩んでいるのだろう。
まったくあいつらしい。
俺は歩きながら手を挙げ、後ろに見えるよう顔横でひらひらさせながら、
「いいさ、飯は後で。
……静音はしっかり掃除してから、ゆっくり作ってくれればいい」
そう言うと、
「あ…………はい……!」
何かを噛み締めるような、そんな優しい声が背中に戻ってきた。
自然笑顔になる俺、そして軽くなる口。
「それに…………その、なんだ……良いもん見させてもらったし……」
「え?」
――て、おい!!
軽くなり過ぎだ、口っ!!
「それってどういう――」
幸い(?)静音は気付いていないようだ。
が、この場にいれば俺に危機が来ないとも限らない。
静音が首を傾げ、疑問に思う中(あくまで想像だが多分あってるだろう)、俺は早足で家に戻っていた。
むろん、その朝食で俺がぎくしゃくしていたのは言うまでもないことだ。
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